安くて快適な「白タク」配車サービス
中国の一般のタクシーに比べて「優歩」が優れているのはなんといっても車です。中国の街で拾うタクシーはだいたい安い車をとことんまで使い倒したものが多くて、ドアノブが破損していることもよくありますし、車内には汚れもたまっていて、お世辞にも快適とは言えません。中国のタクシー運転手は、会社に対して毎月定額の権利金を上納する契約で働いていて、長時間労働と低収入によって疲弊しており、運転も乱暴になりがちで、いつもヒヤヒヤさせられます。
それに比べると、「優歩」の車は高級できれいですし、運転手は自分の車を使ってヒマな時に小遣い稼ぎに人を乗せているので、いわば友だちの車に同乗している感覚です。知らない人の車に乗っても大丈夫か、という不安はありますが、「優歩」では乗車後に利用者が運転手を5つ星方式で評価する仕組みがあり、悪質な運転手は淘汰されることになっているから安心できるのだ、と知人は言います。
また、目的地に行くルートがコンピュータによって自動的に設定され、運転手はそれに従って走行しなければならないから、一般のタクシーのように遠回りして料金を稼ごうとすることなどないのだそうです。
「優歩(ウーバー)」は2009年にアメリカのシリコンバレーで創業された会社で、車に乗りたいという需要と、ヒマな車と時間を利用して小遣い稼ぎをしたいドライバーとをGPSの位置情報などを使って橋渡しするシステムをアメリカ、中国など世界67カ国の350都市で展開しています。なかでも中国では大きな市場を獲得しており、広州市はウーバーが展開されている350都市のなかでもっとも乗車の注文数が多いのだそうです(『21世紀経済報道』2015年11月19日)。
法的にはグレーどころか......
とはいえ、一般のドライバーが客を乗せて料金をとるという行為は法的には「白タク」にあたります。中国でも交通運輸省は一般の車が営業行為をすることはまかりならん、と再三警告しており、法的に「グレー」というよりほぼ「黒」と言っていいでしょう。(ちなみに、中国では白タクのことを「黒車」と言います。)
それでも中国でウーバーが広まっているのは、こうしたサービスに対する潜在的需要が大きいことと、法律もプラグマティックに曲げてしまうという中国特有の柔軟さがあったからでしょう。
もともと中国の大都市ではしばらく前からタクシーの供給不足が起きていました。2014年夏に訪れた大連市は特に供給不足がひどくて、空車のタクシーはみな乗車を拒否するので、知人は空車を早々とあきらめ、むしろ人がすでに乗っているタクシーに向かって手を挙げていました。
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