コラム

安くて快適な「白タク」配車サービス

2015年12月07日(月)19時34分

 中国の一般のタクシーに比べて「優歩」が優れているのはなんといっても車です。中国の街で拾うタクシーはだいたい安い車をとことんまで使い倒したものが多くて、ドアノブが破損していることもよくありますし、車内には汚れもたまっていて、お世辞にも快適とは言えません。中国のタクシー運転手は、会社に対して毎月定額の権利金を上納する契約で働いていて、長時間労働と低収入によって疲弊しており、運転も乱暴になりがちで、いつもヒヤヒヤさせられます。

 それに比べると、「優歩」の車は高級できれいですし、運転手は自分の車を使ってヒマな時に小遣い稼ぎに人を乗せているので、いわば友だちの車に同乗している感覚です。知らない人の車に乗っても大丈夫か、という不安はありますが、「優歩」では乗車後に利用者が運転手を5つ星方式で評価する仕組みがあり、悪質な運転手は淘汰されることになっているから安心できるのだ、と知人は言います。

 また、目的地に行くルートがコンピュータによって自動的に設定され、運転手はそれに従って走行しなければならないから、一般のタクシーのように遠回りして料金を稼ごうとすることなどないのだそうです。

「優歩(ウーバー)」は2009年にアメリカのシリコンバレーで創業された会社で、車に乗りたいという需要と、ヒマな車と時間を利用して小遣い稼ぎをしたいドライバーとをGPSの位置情報などを使って橋渡しするシステムをアメリカ、中国など世界67カ国の350都市で展開しています。なかでも中国では大きな市場を獲得しており、広州市はウーバーが展開されている350都市のなかでもっとも乗車の注文数が多いのだそうです(『21世紀経済報道』2015年11月19日)。

法的にはグレーどころか......

 とはいえ、一般のドライバーが客を乗せて料金をとるという行為は法的には「白タク」にあたります。中国でも交通運輸省は一般の車が営業行為をすることはまかりならん、と再三警告しており、法的に「グレー」というよりほぼ「黒」と言っていいでしょう。(ちなみに、中国では白タクのことを「黒車」と言います。)

 それでも中国でウーバーが広まっているのは、こうしたサービスに対する潜在的需要が大きいことと、法律もプラグマティックに曲げてしまうという中国特有の柔軟さがあったからでしょう。

 もともと中国の大都市ではしばらく前からタクシーの供給不足が起きていました。2014年夏に訪れた大連市は特に供給不足がひどくて、空車のタクシーはみな乗車を拒否するので、知人は空車を早々とあきらめ、むしろ人がすでに乗っているタクシーに向かって手を挙げていました。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story