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アマゾンvs.アリババ、戦略比較で分かるアリババの凄さ
政府との関係性においても、両者は正反対である。アマゾンは地域社会と数々のコンフリクトを起こし、トランプ大統領が「小売店に大きな被害をもたらしている」と批判すれば、ベゾスは「彼は大統領にふさわしくない」と言い返すという敵対的な関係にある。
しかし、アリババと中国政府との関係は現時点ではきわめて良好。政府の要人がアリババの株主や役員として名を連ねている。トランプ大統領ともジャック・マーは会談しており、「アリババが米中をつなぎ、100万人の雇用を米国で生み出す」と確約したといわれている。
一見して明らかなのは、アリババの成長スピードのすさまじさだろう。アリババは「105年続く企業」を標榜しており、その意味ではアマゾンの超長期志向の経営と重なるのだが、足元のスピード感はアマゾン以上だ。創業わずか20年弱にして、中国で独占的ともいえる地位を築いた「帝国」。2017年の流通総額は約60兆円。時価総額に至っては、2017年10月10日に4700億ドル(約53兆円)を記録し、アマゾンの時価総額をいったん超えている。
「神様」ジャック・マー:アリババの「将」と「法」
では、アリババを創業した「将」こと、ジャック・マーとはどのような人物なのだろうか。
ジェフ・ベゾスがビジョナリー・リーダーシップ、すなわち「将来こうなりたい」という大きな夢で人を鼓舞するタイプのリーダーであるとするなら、ジャック・マーはミッション・リーダーシップ、すなわち「中国は、世界はこうあるべきだ」いう社会的なミッションを掲げて人を巻き込んでいくタイプのリーダーだといえそうだ。
私は2012年前後に香港に居住し、グレーターチャイナやアジア全域のクライアントビジネスを担当、相前後して中国とのビジネスも長年経験してきている。今回、改めてジャック・マーの人物像を探るため、30人以上の中国人留学生や中国人ビジネスパーソンにヒアリングを行なった。
その結果、浮かび上がってきた人物像は、やはり「偉人」「英雄」「神様」「チャイニーズドリームの象徴」。現代の中国人が尊敬し、英雄視する対象としてのジャック・マーであった。バイドゥ、アリババ、テンセントという中国3大IT企業のなかでも、経営者としての存在感はジャック・マーが抜きん出ているという。その理由は彼が掲げる社会的ミッションだ。中国のためにインフラを整備する、よりよい世界にするという一貫した態度が、多くの中国人を惹き付けているのである。
ジャック・マーに影響され、「自分も起業したい」「自分も中国のために働きたい」と考えるようになった中国の若手ビジネスパーソンの数は、私たちが想像もできないほど多いに違いない。私個人の印象でも、利己主義に陥らずCSR的な大志を持って仕事をする人間の数は、日本人よりも中国人のほうが多いのではないかと思うくらいである。
私たち日本人は、中国企業のプレゼンスやテクノロジーの驚異的な進化に加えて、中国人ビジネスパーソンの意識の進化にも目を向ける必要がある。私心的な野心家より、大きな使命感を持つ人たちが確実に増えてきているのだ。
私が教えている立教大学ビジネススクールで学ぶ中国人留学生も、みな「日中の懸け橋になりたい」との熱意に溢れている。彼らは「ジャック・マーがいなければ、今ごろ中国は全然違う国だった」と語る。「中国のためにインフラを整備する」というジャック・マーの言葉は絵空事ではないようだ。自分が発言したことをすべて実現させたからこそ彼は尊敬され、中国人の神様になったのである。
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