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大学進学率は20%!「最強の小国」スイスの競争戦略
グローバル人材がスイスに学びに来る仕組み。グローバル企業がスイスに拠点を構える仕組み。さらには学びや仕事で来た人がスイスに住み続ける仕組み。これらの仕組みとしてもスイスは、優れた事業環境・教育環境・生活環境を整備してきたのだ。
スイスの優れた教育環境の事例として指摘したいのは、子女教育として世界的に有名なボーディングスクールである。全寮制の寄宿舎を基本とするボーディングスクールはスイスのグローバル企業等で働く人たちの子女のほか、世界中のVIPの子女を集めて優れた教育を提供している。
スイスの優れた生活環境は、豊かで風光明媚な自然環境、優れたインフラや高い生活水準などのクオリティー・オブ・ライフの高さに反映されている。スイスで学び続けたい、スイスで働き続けたいと思う動機の中核は、やはり普段からの生活環境なのである。
世界中の富裕層がスイスに移住するのも、税制面もさることながら、優れた事業環境・教育環境・生活環境を高く評価してのことなのである。
【将】実践的な職業教育訓練制度と欧州トップクラスの大学
「将」とは、リーダーシップ、人材、教育のことである。小国で天然資源にも乏しいスイスでは、人材が最も重要な財産であると考えられてきた。そして教育システムこそが他国とスイスとを明確に峻別する大きな差別化要因となっている。
スイスの教育を語る上でまず驚く数字は、大学進学率が20%程度と極めて低水準にとどまっていることである。これはスイスにおいて二重教育と呼ばれる職業教育訓練制度が発達していることを主因とするものである。
スイスでは高校入学時に、大学進学を目指す進学コースと職業訓練コースの2つのコースに分かれる。同国では大学での高等教育と職業訓練とが社会的に同等の価値をもつとされており、実際に大卒と比較して就業機会や給与水準の格差もほとんどないことから学生の約7割が職業教育訓練を選択している。
職業訓練コースでは、週の1~2日を学校での授業に使い、残りの3~4日を協力企業での実地職業訓練に使うカリキュラムが組まれている。学校での教育と企業での実地教育の2つが同時に提供されることから二重教育と称され、徒弟教育制度とも呼ばれるスイス独自の仕組みだ。この制度がスイス国民の多くに高度で実践的な職能を提供し、国全体としての生産性も高める仕組みとなっているのである。
このような中でスイスの大学では、その進学率が20%という低水準であることからもわかるように、真の高等教育に特化したエリート教育が行われており、国立大学と州立大学の教育・研究レベルは高水準にある。
スイスの国立大学は連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)の2校のみであるが、両校ともに欧州トップクラスの大学。ETHZで教育を受け研究を行ったことのあるノーベル賞受賞者は21人にも及んでいる。
なお、スイスの学校教育においては語学教育も重視されており、スイス人の優れた多言語運用能力を支えている。スイスでは英語通用度が高いことに加えて、公用語となっている独語・仏語・伊語のうちの複数言語に堪能な国民も多い。この多言語運用能力の高さがスイスのグローバル展開における大きな強みともなっている。
スイスの人材構造は、図表2の「将」に示す通り、職業訓練校と大学出身者がミドル人材を支え、そこから選抜された人材と海外からのグローバル人材とが国内のトップ人材層を形成している。また、労働集約的な業務については海外からの越境労働者がその役割を担っている。
スイスの人材構造が優れているのは、グローバル企業の本社機能や研究機関にグローバル人材を受け入れる一方で、国内の高度職業訓練人材も、海外からのハイレベル人材と仕事を共にすることで学習し、さらにその能力を高めていることにある。そして優れた生活環境等を提供することで、スイスに来た海外からのグローバル人材を国内に定着させる努力まで行っているのである。
最後に、スイスの「将」を語る上で、移民は欠かせない重要なポイントである。スイスでは移民が国民全体の3割を占めているほか、移民から多くの傑出した起業家も輩出している。ネスレ創業者のアンリ・ネスレはドイツ出身、スウォッチ創業者のニコラス・ハイエクはレバノン出身など、スイスを代表する企業の創業者にも移民が多い。
小国だからこそ移民を広く受け入れ、その移民が新たな産業や事業を興し、グローバルに事業展開してきたこともスイスの強みなのである。
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