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大学進学率は20%!「最強の小国」スイスの競争戦略
【法】ハイレベルな産学連携による産業クラスターの形成
「法」とは、法律制度のみならず、広く国家としてのマネジメント体制、国家構造、産業やスタートアップを生み出すエコシステムなどが含まれる。
スイスでは、産業クラスターと呼ばれる関連する産業や企業の集積体が様々な産業において形成されている。精密機械、医薬品やバイオテクノロジーなどのライフサイエンス、情報通信技術、金融・保険などが産業クラスターの事例である。
これらの産業クラスターにおいては、各産業を代表するグローバル企業が本社機能やR&D拠点などを構えているほか、スイス国内の中小企業も関連企業としてクラスターを支えている。スイスの中小企業には職業訓練教育で鍛え上げられた人材が多く、グローバル企業を引き寄せる大きな要因ともなっている。
大学主導の産学連携もスイスのイノベーションにおいては重要な仕組みの1つ。ETHZとEPFLの2つの連邦工科大学が中心となって、産業界に技術移転する仕組みを整えている。産学が緊密に連携することで、質の高い人材の輩出やハイレベルな研究開発を実現しているのである。
冒頭に述べた世界経済フォーラムによる国際競争力ランキングにおいてスイスが首位を保ち続けている要因としても、産学連携は重要なポイントである。
スイスが高い評価を受けている3大要因は、「世界で最も特許当たりのR&Dコストが低いこと」、「GDPに占めるR&D投資比率が高いこと」、「科学技術やマネジメントの高等教育レベルが高いこと」であるが、これらのいずれに対しても産学連携が大きく貢献していると評価できる。
道・天・地・将・法の総合評価
スイスは、国際競争力ランキングで最上位レベルであるという事実にとどまらず、世界でもトップレベルの豊かさや安定感・安全性などを兼ね備えた国である。
人口が少ない、国土が小さい、天然資源が乏しいといった恵まれない内的要因を強烈な危機感とチャレンジスピリットに転化させ、グローバル市場に成長の活路を見出してきた。そして高級時計、医薬品、金融・保険、教育など様々な分野で強固なスイスブランドを構築するのに成功し、海外からもグローバル企業やグローバル人材を引き寄せてきた。
優れた事業環境・教育環境・生活環境がヒト・モノ・カネというインプット要因を海外から吸引し、それらを高めていく仕組みによってさらに高いアウトプットを産出してきた。国・産業・企業の3階層におけるイノベーション戦略、ブランド戦略、グローバル戦略が、三位一体となって高い競争力を生み出してきているのだ。
その一方で先に述べた通り、スイスは国が強い指導力を発揮して包括的な戦略を実行していくという国家ではない。実際に詳細な戦略や計画を描き、実行しているのは企業であり、1人ひとりの国民なのである。分権政治や自治、自主性、民度の高さなどがスイスの競争優位の源泉なのである。
最後に、こうしたスイスの国民性を端的に物語る出来事を紹介しておきたい。
スイスでは昨年6月、全ての国民に毎月一定金額を無条件で支給するという最低生活保障制度(通称ベーシックインカム)の導入についての国民投票が実施された。その結果、実に76.9%の反対票により同案は否決されている。反対票を投じた人たちの主な理由は、国から支えられることで勤労意欲が低下することや国の競争力が落ちることなどへの懸念だったという。
ベーシックインカムの否決には、スイスの「最強の小国」としてのプライドや危機感こそがイノベーションの源泉であるという想いが込められているのではないだろうか。個人の責任と国家の責任について再考を促される思いがするのは筆者だけではあるまい。
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