コラム

サウジ記者殺害事件と海南航空不審死をつなぐ「点と線」

2018年11月02日(金)12時49分

サウジアラビアによる記者惨殺事件に対して世界各地で抗議の声が挙がった(ワシントン) Leah Millis-REUTERS

<サウジアラビアで起きた記者惨殺事件と、中国・海南航空会長の不審死には共通点がある。そしてこの2つの独裁国家にインパクトを与えうる男がいる>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。

世界を騒がせているサウジアラビアの記者惨殺事件と、フランスで起きた海南航空会長の不審死はまったく関係のない2つの別の事件と考えられているが、実は知られざる「接点」がある。

サウジのジャマル・カショギ記者は10月、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で絞殺され、その後遺体をバラバラにされたが、彼の殺害に関わった15人のサウジ人の1人である空軍の軍人が事件後、サウジの首都リヤドで「不審な交通事故」を遂げた。「口封じされた可能性がある」と、トルコの当局者は語っている。

海南航空グループの王健会長は今年7月、出張中の南仏プロバンス地方の教会で、写真を撮るために高さ15メートルもの壁によじ登ろうとして転落した。ただし、事故死という公式発表を信じる人など一人もいない。事情通ならだれもが暗殺と考えている。

中国出身の国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)総裁である孟宏偉は10月、インターポール本部所在地のフランスから帰国中に「失踪」した。中国当局は孟が収賄で取り調べを受けていると明らかにしたが、この説明に納得している事情通もまた一人もいない。

サウジアラビアと中国に共通する「冷酷さ」

海南航空の秘密を昨年7月に暴露したのは、アメリカに事実上の亡命をしている中国人大富豪の郭文貴だ。海南航空のバックにいるのは習近平の右腕・王岐山であり、同社が「白手套」(白手袋、違法マネーをロンダリングする仲介者の意味)として王岐山の資金源になっていたと明かした。

【参考記事】中国大手32社が「不審死&経営難」海南航空と同じ運命をたどる!?

中国公安省副省長を14年間も務めた孟も、王岐山と深い関係がある人物だった。孟が勤務するインターポールの所在地のリヨンと、王健が不審死したプロバンス地方の街ボニユーは約200キロしか離れていない。孟はおそらく王健の不審死の秘密を詳しく知っている。だからこそ中国に呼び戻され、そして突然「失踪」させられたのだ。

サウジアラビアと中国には、どちらも独裁国家で金持ちだが世界ではあまり好かれていない。カショギ記者はもともとサウジの王家に出入りする政権の内部関係者だった。危険になった以前の手下を別の手下に「処分」させ、秘密を知ったその別の手下も「処分」する――今回サウジと中国が関係した2つの事件には、独裁国家独特の冷酷さが共通している。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日製副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道

ワールド

米国務長官、4月2─4日にブリュッセル訪問 NAT

ワールド

トランプ氏「フーシ派攻撃継続」、航行の脅威でなくな

ワールド

日中韓、米関税への共同対応で合意 中国国営メディア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story