コラム

教育論議から考える、日本のすばらしいサービスを中国が真似できない理由

2016年08月23日(火)16時20分

eli_asenova-iStock.

<詰め込み型の中国式教育か、創造性を重んじる日本や欧米の教育か――。8歳の息子には日中折衷の教育を受けさせているが、自分の原体験や日本でのレストラン経営経験から言えるのは、こうした対比よりも大切な「家族の絆」だ>

 こんにちは。新宿案内人の李小牧です。

 私には8歳になる息子がいる。先日、「お子さんの教育は日本式ですか? 中国式ですか?」と友人に質問された。中国と言えば世界に名だたるスパルタ教育大国だ。厳しい大学受験を勝ち抜くため、子どもの頃から勉強漬け。「点滴を受けながら自習する子どもたち」という、ある進学校の写真が流出して世界を驚愕させたこともあるし、「子どもを受験地獄で苦しめたくない」との理由で移民を考える親までいるほどだ。

 とはいえ、海外の甘やかした教育ではエリートにはなれないと心配する人もいる。米国の大学入試で華人が圧倒的な好成績を残していることがその証明だ。今や子どもの創造性を重んじる日本でも、歌舞伎など伝統芸能には「型」という言葉がある。中国の伝統教育も同様の概念を持っている。子どもにとっては辛いだろうが、まずは学ぶべき内容を叩き込むことこそが上達の道だという考え方だ。

 詰め込み型の中国式教育、創造性を重んじる日本や欧米の教育。果たしてどちらが正解なのだろうか? というわけで、「元・中国人、現・日本人」の教育方針をここでお披露目してみたい。

勉強量と創造性はどっちが大事?

「歌舞伎町式勉強法で成績急上昇!」と、うさんくさい子育て法の本でも書けばベストセラーが狙えるかもしれないが、いくら歌舞伎町が人生勉強の聖地とはいえ8歳の息子にはまだ早すぎる(笑)。私の方針は目新しいものではない。平々凡々、日中の折衷路線だ。

 まずは勉強量。確かに日本の学校教育だけでは勉強量が足りない。宿題以外に中国で買ってきた教材で勉強させているし、週に1回、中国語教室にも通わせている。中国に住む親戚とも日常会話ができるレベルまで上達したようだ。

 一方で感性や体力を養うことも重要視している。例えば、囲碁。「人生の先を読む力が養われる」と、ある高名な中国人囲碁棋士に聞いたためだ。めきめきと上達し、今では私では相手にならなくなってしまった。水泳にも毎週通っている。元バレエダンサーの私としては、息子にもバレエを習わせたかったのだが、妻から猛反対を受けてあきらめた。芸能の道に進めば勉強する時間がなくなると心配しているのだ。子ども時代にバレエスクールに通うぐらいで心配しすぎだと思うのだが、言い争いになっても妻には勝てないのが日中共通の文化だから仕方がない(笑)。

 勉強量重視か創造性重視かとの問いには、「どちらも大事」というのが私の答えだ。どちらかに偏ればいびつな子どもに育ってしまう。

 中国式詰め込み教育と欧米式創造性教育の対比は、長年議論され続けてきたテーマだ。代表例が2010年に米国で出版されたエイミー・チュアの『Battle Hymn of the Tiger Mother』(邦訳は『タイガー・マザー』朝日出版社、2011年)だろう。すさまじいスパルタ教育の描写が論議を呼び、全米ベストセラーとなった。

【参考記事】アメリカの「タイガーマザー」論争は日本の教育論議の参考になるのか?

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story