コラム

学校の統廃合が地域の移動課題解決のカギとなる理由

2022年09月28日(水)16時40分

子供の頃、徒歩や自転車、公共交通でいかに楽しく安全な通学ができるか。さらには、それを大人になっても継続させられるかは、地方の移動問題を解決する上で重要だ。

クルマ移動に依存してきた地方で、高齢化に伴い、クルマを手放しても暮らせるまちづくりが注目されている。路線バス、コミュニティバス、デマンド交通など送迎サービスを高齢者福祉事業として負担し、運行している自治体も多い。また、セニアカーなど免許のいらない移動手段が使いやすい地域づくりも期待されている。

しかし、ほとんどの地域が「住民に利用してもらえない」問題に直面している。

その理由は、やはりクルマが便利だということ。クルマに慣れ、家族に送り迎えしてもらう生活が当たり前になると、公共交通に乗ったり、カラダを使った移動をすることができなくなる。クルマに頼り切った生活をし、運転をやめると病気になってしまう「クルマ生活習慣病」の重い病から、地方を救うのは非常に難しい。

クルマ生活習慣病にかかってからでは手遅れ。事前に予防するのが移動問題でも大事なのだ。クルマを運転しつつも、歩いたり、自転車に乗ったり、ときには公共交通に乗って通勤するなど、クルマ以外の移動を生活の中に取り入れる工夫が必要だ。

このように、通学は子供の頃の一時的な問題ではなく、一生涯の問題でもあるのだ。

通学路の改善で地域の移動課題を解決

免許返納した高齢者にスタイリッシュな車いすなどのパーソナルモビリティを使ってもらおうという機運が高まっている。ところが、自宅からスーパーまでの道路が危ないために使えない場合がある。そうはいっても自治体の財政は厳しく、そう簡単に道路を整備してもらえるわけではない。一方、通学路の整備となると、自治体の中での予算取りも優先順位が高くなるのだそう。

子供たちが肩身の狭い思いをせずに安全に通学できる地域は、高齢者にとってもやさしい地域と言える。

学校の統廃合と通学を考えることは、高齢化に直面する地域の移動課題を解決する好機となるかもしれない。

20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NZ企業信頼感、1月は低下 コスト下げ止まりの兆し

ワールド

訂正:旅客機が米軍ヘリと衝突、川に墜落 首都ワシン

ワールド

フィリピンGDP、第4四半期は前年比+5.2%で横

ビジネス

トヨタの24年世界販売3.7%減、過去最高の海外寄
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 7
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    女性が愛おしげになでていたのは「白い犬」ではなく.…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story