コラム

障がい者の「自分で運転したい」に応える自操式福祉車両の可能性

2021年07月14日(水)20時30分
イタリアKIVI社の手動運転装置を施した車両の運転席

イタリアKIVI社の手動運転装置を施した車両の運転席。車いすに乗ったままでも運転できる  Kivi YESweDRIVE-YouTube

<積極的に社会参加する欧州の障がい者とそれを可能にする「自操式福祉車両」にヒントを得たと、国内で福祉車両の改造サポートを展開するヤナセオートシステムズ代表取締役社長の江花辰実氏は言う>

病気や交通事故でクルマの運転を諦めてしまったという人は少なくない。一方で、『五体不満足』(講談社)の著者として知られる乙武洋匡氏のように運転免許を取得し、クルマを改造して運転している人もいる。身体障がいを持つ人でも、都道府県の警察に相談して安全な運転が可能だと判断されれば、「自操式福祉車両」に改造することで自分で運転することができるのだ。

メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、シボレー、キャデラック、ポルシェ、アウディ、スマートを取り扱い、全国300拠点を越えるネットワークを持つヤナセ。介護用ではなく、障がいのあるドライバーが自分で運転できるように「自操式福祉車両」の改造サポートを積極的に進めている。福祉車両の改造を担当するヤナセ執行役員・株式会社ヤナセオートシステムズ代表取締役社長の江花辰実氏に日本と欧州における福祉車両の違いと、国内で積極的に改造サポートを展開するその背景を聞いた。

◇ ◇ ◇

──介護用だけでなく、障がいのあるドライバーが自ら運転する「自操式福祉車両」への改造に力を入れるきっかけは何だったのか。

ドイツの福祉車両・機器の展示会(REHACARE;International Trade Fair for Rehabilitation and Care)やイタリアの福祉車両メーカー(KIVI社、フォカッチャグループ)に訪問した際に大きな衝撃を受けた。欧州では障がい者と健常者の垣根が低く、非常に明るくアクティブに社会と関わり、その社会をサポートするための機器や車両が発達していることに驚いたからだ。

またイスラエルの福祉車両機器メーカーから聞いた話では、イスラエルでは福祉車両の改造費用をはじめ、車両代についても公的補助があり、高度な福祉機器を負担なく利用できるようになっており、おかげで機器の開発も進んでいるという。

──日本では見かけない車両や機器もたくさん存在するようだが、特に興味を持った製品を教えてほしい。

車いすユーザーにとって運転席に座る前に車いすをクルマに積み入れることが負担となる。この問題について、例えばイスラエルではトランクルームに車いすを自動で積み込む装置を開発したりしている。

またイタリアのKIVI社では、クルマの後方シートや運転席を取り外して、足を使わずに運転できるようにしている。ドライバーは車いすに乗ったまま車両後方(リアゲート部)より乗り込むことができる改造がされているようだ。ハンドルやアクセルがなく、ボタンで操作できる車両まである。

このように日本と欧州では、障がい者に対する考え方が根本的に異なるため、自操式福祉車両についても大きな差があると感じた。日本の障がい者にも欧州のように、できるだけ長く自分の好きなクルマで人生を楽しめるようにできないかと強く興味を持った。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story