コラム

障がい者の「自分で運転したい」に応える自操式福祉車両の可能性

2021年07月14日(水)20時30分

──自操式福祉車両の改造についてどのように考えているのか。

日本で福祉車両というと、介護用のリフトやスロープ付き送迎車といった「移動するクルマ」のイメージが主流ではないだろうか。最近では、メルセデス・ベンツをはじめとするヤナセが取り扱うブランドの輸入車もコンパクトサイズのモデルの種類が増えていて、障がいを持った人が自分で運転できるクルマに改造したいというニーズも増えてきていると感じる。

ヤナセの企業理念には、「最上質な商品・サービス・技術を、感謝の心を込めて提供し、"夢"と"感動"あふれる『クルマのある人生』を創ります。」を掲げている。障がい者や高齢者が、運転を諦めて家族に介助されながら助手席や後部座席に乗って移動する手段としてのクルマに改造するだけでなく、障がいを持っても高齢になっても、各々の個性や嗜好に基づいて選んだ輸入車を楽しみながら乗り続けられるように、「自操式の福祉車両」の改造サービスとサポート環境の整備にも力を入れている。

具体的には、車いす昇降リフト、スロープ装置、回転シートの装着などを行えるように、税制の優遇措置、公的な助成制度の情報収集をするなど。全国9カ所で展開している板金・塗装部門の内製工場を中心に車両改造の作業を始めたりしている。

基本的に輸入車には福祉車両のラインナップがない。これまで輸入車ユーザーは、輸入車を福祉車両に改造できる事業者を自分で探すしかなかった。これから積極的に福祉車両への改造ニーズを拾っていくべく、輸入車・国産車の質の高い福祉車両改造の実績を持ち、全国的なネットワークがあるオフィス清水と2017年に業務提携を結んだ。これにより福祉車両を必要とするユーザーのニーズを丁寧に汲み取る体制を構築できるようになった。

参考記事:日本と欧米の「福祉車両」から、高齢者・障害者を取り巻く環境の違いが見えてくる(オフィス清水代表取締役・清水深氏インタビュー)

──欧州のような福祉車両の改造を日本でもできないだろうか。

ドイツ、イタリア、イスラエルの現状を知ったときの衝撃は非常に大きかった。障がい者が健常者と同じようにアクティブに社会参加するあの世界観をなんとか日本でも少しずつ浸透させていきたい。

しかし、障がい者に対する社会の考え方が根本的に異なるため、日本では改造や購入を支援する制度が充実していない。自操式福祉車両に対する認知やニーズや、車いすマークがついた駐車スペースに平気で停めてしまうなど意識が低かったりする。このように乗り越えなければいけない意識面の課題も多く、日本ではまだまだ難しいのが実情だ。自操式福祉車両がより身近な選択肢になるには、社会的な理解とサポートが欠かせない。

弊社としては、展示会での紹介や拠点スタッフへの教育を地道に続けていきたいと考えている。できるだけ多くの人に知ってもらい、障がい者と健常者の垣根のない社会とクルマのある人生を創っていきたい。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story