コラム

大阪・小4女児行方不明から20年──事件現場に見る、犯罪が起きやすい場所の条件

2023年05月12日(金)10時15分

半世紀にわたる研究の結果、犯罪が起きやすい場所は、「入りやすい(領域性が低い)場所」と「見えにくい(監視性が低い)場所」であることがすでに分かっている。犯罪者は、この2つの条件が満たされた場所を選んでいるわけだ。

「入りやすい場所」とは、だれもが簡単にターゲットに近づけて、そこから簡単に出られる場所である。そこなら、怪しまれずに近づくことができ、すぐに逃げることもできる。

熊取町の行方不明現場も「入りやすい場所」だ。なぜなら、熊取町が運行するコミュニティバスも走るような幹線道路の近くだからだ。加えて、ガードレールがない道でもあるからだ。

筆者が知る限り、過去の誘拐事件はすべて、ガードレールのない道で起きている。そこは、車を使う誘拐犯にとって、だますにしても力ずくで行うにしても、子どもをスーッと車に乗せられる「入りやすい場所」だからだ。

物理的に「見えにくい場所」にも2種類

もう一つの防犯キーワードである「見えにくい場所」とは、だれの目から見ても、そこでの様子をつかむことが難しい場所である。そこでは、余裕を持って犯行を準備することができ、犯行そのものも目撃されにくい。

「見えにくい場所」には、物理的に危険な場所と、心理的に危険な場所の二つがある。このうち、物理的に「見えにくい場所」は、さらに二つのパターンに分けることができる。一つは死角になる場所であり、もう一つは、死角はないものの視線もない場所である。

熊取町の行方不明現場は、前者のパターン、つまり、死角になる「見えにくい場所」である。道の両側に、立派な石垣や植栽、高いブロック塀やコンクリート塀が並んでいるからだ。

子どもたちに指導するときは、こうした景色を「トンネル構造」と呼び、分かりやすく説明している。「じっと見ていると、天井のないトンネルに見えてこない?」と、警戒レベルを上げる必要性を訴えているのだ。

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筆者撮影

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筆者撮影

このように、「見えにくい場所」には、犯罪が成功しそうな雰囲気が漂う。反対に、「見えやすい場所」では、視線が想定されるので、犯罪者はためらいがちになる。

犯罪者に視線を想定させればいいので、実際に見ている必要はない。さらに、実際の「目」だけでなく、絵や写真の「目」でも、「見えやすい場所」にできる。

例えば、英国ニューカッスル大学のメリッサ・ベイトソン教授は、セルフサービス方式の無人有料ドリンクコーナーに展示されているポスター写真を、「花」から「人の目」に替えただけで、人々が正直に飲み物代を代金箱に入れるようになった(支払金額が3倍に増えた)と報告している。どうやら、視線に対する人の感受性は相当に鋭いようだ。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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