コラム

「危ない人」は無理でも「危ない場所」なら対策できる──地域安全マップで身に付く防犯知識

2022年09月06日(火)06時00分

社会から何の反応もないまま、地域安全マップの誕生から2年が過ぎた。

ターニングポイントは、突然訪れた。それは、04年に開かれた、沖縄県の「ちゅらうちなー安全なまちづくり条例」の施行記念講演会だった。筆者は、いつものように、講演で地域安全マップを提案した。すると、講演終了後、沖縄県警察本部長(後の警視総監・高橋清孝氏)が、「地域安全マップはいいですね。学生も呼んで、全国初を沖縄でやりましょうよ」と話しかけてきた。しかし、それまでずっと、地域安全マップを講演でアピールしても、リップサービスが返ってくるだけだったので、今回の話も半信半疑だった。警察本部長も、「実現できるか分からないから、学生にはまだ黙っていてください」と付け足していた。

しかし、警察本部長は、地域安全マップを、「ちゅらうちなー安全なまちづくり推進会議」(会長・沖縄県知事)に提案し、その採用が決まった。こうして、最初の地域安全マップのプロジェクトが、沖縄県の小学校で実現した。ゼミの大学生20名が、沖縄県の旅費負担で県下10カ所の小学校を訪れ、地域安全マップづくりを指導した(写真)。

komiya220906_okinawa.jpg

筆者撮影

小学校の教科書にも

こうして、地域安全マップの普及活動が始まった。そのかいあって、内閣総理大臣が主宰し、全閣僚を構成員とする犯罪対策閣僚会議の『犯罪に強い社会の実現のための行動計画』にも、「危険を予測する能力を高めるとともに、地域の連帯感を強めるため、地域安全マップの更なる普及を図る」という文章が盛り込まれた。その後、小学校の教科書でも、犯罪機会論や地域安全マップが取り上げられるようになった。

07年には筆者の教え子たちにより、NPO法人「地域安全マップ協会」が設立された。

学術分野でも、福山大学の平伸二教授、北陸大学の山本啓一教授、九州国際大学の姜信一教授、香川大学の大久保智生准教授、北九州市立大学の村江史年准教授、上越教育大学の蜂須賀洋一准教授など強力な推進者が現れた。

また国際的にも、11年、アジア犯罪学会の機関誌に、地域安全マップに関する査読付き論文が掲載された。

新型コロナが流行してからは、Googleストリートビューを用いたフィールドワーク・シミュレーションの手法が加わり、オンライン方式で「地域安全マップ教室」が開催されている(写真)。

komiya220906_online.jpg

東京海上日動提供

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 10
    バカげた閣僚人事にも「トランプの賢さ」が見える...…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story