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「危ない人」は無理でも「危ない場所」なら対策できる──地域安全マップで身に付く防犯知識
にもかかわらず、小学校で作られている地域安全マップのほとんどは、作り方を間違えている。例えば、不審者が出没した場所を表示したり、不審者への注意を呼びかけたりする「不審者マップ」がそうだ。人に注目しても、危険を予測することは難しく、差別や偏見、あるいは人間不信を助長するだけである。
犯罪が起きた場所を表示した「犯罪発生マップ」も作り方を間違えたものだ。子どもは「虫の目」で世界を見ているので、作るべきは3次元の景色を再現する地域安全マップである。犯罪発生マップは「鳥の目」で見た2次元の俯瞰図なので、警察や行政でなければ役に立たない。
正しい方法で地域安全マップづくりが行われた場合にのみ、景色を見て安全と危険を識別する「景色解読力(危険予測能力)」が高まる。
大阪教育大学附属池田小学校の孕石泰孝教諭と岩井伸夫教諭は、小学校で行った地域安全マップの授業を、児童への事前と事後の意識調査によって検証し、危険予測能力の向上という学習効果があったと結論づけている。
また、2019年に文部科学省委託「学校安全総合支援事業」のモデル校になった新潟県上越市立里公小学校で実施したアンケート結果でも、景色解読力の向上が確認できる。
この比較表は、地域安全マップの授業の前と後に、児童と保護者を対象に防犯知識を問うたものである。注意すべきは、このアンケートが「意識調査」ではなく「知識調査」であるという点だ。この種の調査では、「防犯意識は高まりましたか」と問うことが多いが、これでは意味がない。意識が高まっても、間違った知識のままでは、状況は悪化するだけだからだ。重要なのは、精神論的な「意識」ではなく、科学的な「知識」なのである。
このアンケートを見ると、子どもたちの景色解読力が大幅に上昇したことが分かる。というのは、正答率の著しい向上は、正しい知識を大量に吸収したことを意味するからだ。それに引き換え、保護者の知識レベルは、それほど高まっていない。家庭で、子どもから授業の内容を聞いた保護者がいれば、そうでない保護者もいたことがうかがえる。
このように、筆者は、地域安全マップを通じて、「原因論から機会論へ」というパラダイムシフトを日本でも起こそうと努めてきた。「任重くして道遠し」ではあるが、子どもたちの未来の道標にもなる地域安全マップの普及に今後も尽力していきたい。
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