コラム

サンクトペテルブルグ爆発 「容疑者」像とプーチン政権の出方

2017年04月04日(火)22時50分

騒然とする爆発現場付近の様子 Denis Sinyakov-REUTERS

<プーチンの出身地を狙ったかのような地下鉄爆破テロ。来年の大統領選を控え、プーチンは北カフカスでの掃討戦強化やシリアでの大規模空爆でテロに屈しない強い政権をアピールしようとする可能性が高い>

4月3日、ロシア第二の都市サンクトペテルブルグを走る地下鉄内で爆発が発生し、これまでに判明している限りで10人が死亡した。負傷者も50人ほどに及ぶと伝えられる。

爆発が発生したのは走行中の地下鉄車内である。ロシアメディアの報道によるとTNT火薬500グラム相当の爆発物が爆発し、殺傷力を高めるための金属球が飛散したという。

さらに市内の別の駅では消火器に偽装した爆発物(やはり金属球が詰められていた)が発見されており、テロ事件である可能性が極めて高い。

当時、サンクトペテルブルグには毎年恒例の記者会見に臨むため、プーチン大統領が滞在しており、これにタイミングを合わせたものと考えられる。

考えられる「容疑者」

今回の事件が爆弾テロである場合、考えられる「容疑者」は次のいずれかであろう。

第一は「カフカス首長国」で、もとはチェチェン独立運動のために結成されたものの、のちにイスラム過激派としての色彩を強めるようになった組織である。これまでにモスクワ=サンクトペテルブルグを結ぶ長距離鉄道の爆破、モスクワ地下鉄の爆破、ドモジェドヴォ空港(モスクワ)爆破といった重要交通インフラを狙ったテロを繰り返しており、この意味では今回のテロ事件とは類似性が認められる。

【参考記事】プーチンのロシアでは珍しくない凄惨なテロ
【参考記事】ロシア地下鉄爆破テロ、実行犯はキルギス生まれのロシア人

ただし、これらの多くは自爆テロであり、仕掛爆弾を用いる今回の事件とは手法面でやや異なる。

また、カフカス首長国はロシアの対テロ作戦によって近年、勢力を落としており、ここしばらくは大規模なテロに及んでこなかった。

そこで第二の候補として考えられるのが、イスラム国(IS)である。

2015年にシリアに軍事介入を行って以降、ロシアはシリア反体制派とともにISに対しても攻撃を加えてきた。2015年にエジプト上空で発生したロシア旅客機の爆破事件も、ロシアの介入に対するISシナイ州(ISのエジプト支部)の報復攻撃であったと見られている。

また、2014年には前述のカフカス首長国から一部の派閥が分派し、ISに忠誠を誓うようになっている。この勢力は2015年からISカフカス州として正式にISの支部として認定されており、今年3月にはチェチェンに駐屯するロシア治安部隊の基地を襲撃して6人の犠牲者を出していた。これ以前にも、ISによる小規模な戦闘やテロはロシア国内で発生しているほか、モスクワやサンクトペテルブルグでのテロを計画していたと見られるIS構成員がロシア国内で拘束されるなどしている。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story