ロシアが北方領土に最新鋭ミサイルを配備 領土交渉への影響は
北方領土に対艦ミサイルが配備されるのはこれが初めてというわけではなく、従来から択捉島には旧式の「リドゥート」地対艦ミサイルが少数ながら配備されていた。ほかにも千島列島内ではシムシル島にもリドゥートが配備されており、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)のパトロール海域であるオホーツク海を防衛する役割を果たしてきた。この意味では、択捉島のバスチョンは従来から存在するミサイルの代替ということになる。配備された部隊は「中隊の増強を受けた大隊」とのことなので、少なくとも移動式発射機4両ないしそれ以上を含むと考えられよう。さらにもう1個大隊が編成中とされるため、シムシルにもバスチョンが配備される可能性もある。
一方、国後島にはこれまで対艦ミサイルが配備されたことはなかった。日本により近い国後島は、有事に真っ先に侵攻を受ける可能性があったためだと思われる。従来から国後のソ連/ロシア軍は地上部隊を中心とし、その後方に控える択捉が戦闘機部隊(ソ連崩壊後に撤退)や地対艦ミサイルの基地になるという役割分担であった。
もっとも、バールは前述のように射程の比較的短いミサイルであるので、その配備も国後島自体の防衛体制強化を念頭に置いたものと考えよう。こちらも部隊の規模は1個増強大隊とされているが、フル編成ならば64発ものミサイルを装備していることになる。
一方、射程の長いバスチョンは、千島列島南部を広くカバーすることになろう(ミサイルの射程が300kmなので、差し渡し600kmをカバーできることになる)。
以下の図は、択捉島とシムシル島にバスチョン、国後島にバールが配備された場合のカバー範囲を大雑把に示したものである(青い円がバスチョン、茶色がバール)。
バスチョン及びバールのカバー範囲 (筆者作成)
ロシアの思惑は
以上の動きがプーチン大統領の訪日を控えたこのタイミングで公表されたことは偶然ではあるまい。ただし、ロシアの行動を全て「対日牽制」という観点から理解しようとすることもまた避けるべきである。
ロシア全土に視野を広げてみると、ロシア軍は2008年のグルジア戦争後から黒海周辺に新型水上艦、潜水艦、地対艦ミサイル、航空機、防空システム、電子妨害システムなどを配備し、有事に西側が容易に介入し得ない領域を作り出そうとしてきた。バルト海、北極海、最近では東地中海でもこうした動きが見られる。
オホーツク海においても、太平洋艦隊の主要拠点であるウラジオストク周辺やカムチャッカ半島のペトロパブロフスク(原潜基地がある)周辺ではこうした能力の構築がすでにある程度進んでおり、それが千島列島の南端である北方領土にまで及んできたと理解したほうがよい。
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