ロシアの対シリア軍事介入はどこまで進むか
トルコ軍機に撃墜されたのと同じロシアのSu-24戦闘機 DMinistry of Defence of the Russian Federation/Handout via Reuters
今年9月30日、ロシアはシリア領内における空爆を開始し、10月7日には巡航ミサイル攻撃もカスピ海上から実施した。ロシアの中東への軍事介入としては、冷戦終結後初となるものである。さらに10月13日、パリでIS(「イスラム国」)シンパによる同時多発テロが発生すると、ロシア政府はエジプトのシナイ半島上空で発生したロシア機墜落事件もISの犯行であったことを突然認め、対IS作戦でフランスなど西側諸国と協力する姿勢を打ち出した。
ロシアの思惑としては、「対IS」で西側との団結をアピールすることでロシアの擁護するアサド政権への退陣要求を緩和し、シリア内戦を有利な形で終結へ導くとともに、ウクライナ紛争で悪化した西側との関係を修復するのが狙いであると思われる。
現在、ロシアはシリア北西部のラタキアに最新型のSu-34戦闘爆撃機やSu-30SM多用途戦闘機など32機を展開するとともに、11月17日以降は25機もの大型爆撃機をシリア空爆専任部隊に指定して自国内からの空爆も行っている。これはロシア本土から発進した爆撃機がカスピ海、イラン領、イラク領を経てシリアまで長距離飛行を行い、爆弾や巡航ミサイルによる空爆を行うというもので、シリア本土に展開した航空機のみによる空爆と比べて格段の強化と言える。
カスピ海からは11月19日に二度目の巡航ミサイル攻撃を実施しており、爆撃機による巡航ミサイル攻撃と合わせて100発以上の巡航ミサイルをISの「首都」とされるラッカなどに撃ち込んだ。米国やフランスと比べても格段に大規模な攻撃であり、今後、英国が攻撃に加わるとしてもロシアがシリア内戦における最大の軍事的プレイヤーであることは変わらないだろう。
だが、プーチン大統領は20日、攻撃の成果を報告したショイグ国防相に対して、空爆の成果を高く評価しつつも、まだ「不十分」であるとの認識を示した。
NATO加盟国のトルコと全面戦争はできない
さらに24日にはトルコ国境付近でロシア軍の戦闘爆撃機がトルコ空軍機によって撃墜され、パイロット1名と救出に向かった海軍歩兵部隊の隊員1名が死亡するという事件が発生し、シリアを巡ってロシアとトルコの軍事的緊張関係が高まった。ロシアは最新鋭のS-400防空システムをラタキアの空軍基地に展開させた他、長距離防空システムを搭載した巡洋艦モスクワをラタキア沿岸に派遣、さらに戦闘機部隊を増派するなど、防空能力の強化でトルコへの牽制を強めに掛かっている。
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