コラム

EU離脱か残留か 翻弄される英国民の今

2019年03月13日(水)17時24分

というのも、延長を認めるかどうか、認めた場合どれぐらいの期間にするのかを決めるのはEU側だからだ。しかも、英国を除く全加盟国の満場一致の合意が必要だ。また、延長を認めてもらうには、「十分な理由」がなければならない。果たして、2-3週間あるいは2-3か月延長したところで、下院が1つにまとまる可能性は・・・今のところ、かなり低い。

代案がない中で、「離脱を止めたい」という議員の思惑や、「合意なしでも離脱」という強硬派の動きなどがあって、予断を許さない事態となっている。

12日午後7時過ぎから始まった、メイ首相の修正協定案の採決の直前、議会の真向かいにあるパーラメント広場に集まった、離脱派・残留派の人々の声に耳を傾けてみた。

「国民の声を聞くべき」

議会入り口の門の前で、大きな旗を持って立っていた、ナイジェルさん。EUの色、ブルーの帽子には加盟国を示す黄色の星のアップリケがついていた。プラカードには「国民の声を聞け」とあった。

kobayashi20190313171401.jpg
ナイジェルさん(撮影筆者)
 
「再度、国民投票をやるべきだと思っているよ」。

離脱は2016年の国民投票で決まった。あの時は僅差だった。「また僅差になってもいいの?」と聞くと、「いい。もしそうなったら、結果を受け入れる」。

離脱派と残留派との亀裂が深くなるのではないか?「必ずしもそうは思わない」。議論が続く議会の方を指しながら、「政治家が誰も決められない。メイ首相もひどいものだ。誰も彼女の案を好まない」

「メイ首相の案でいいのかどうか、離脱を規定する第50条を白紙に戻したいのかどうか、いろいろな選択肢を出して、国民に問うべきだ」。

kobayashi20190313171402.jpg
セバスチャンさん(撮影筆者)

少し先で、パンフレットを配っていたセバスチャンさん。シャツの上には「合意なし」と書かれている。「離脱派?」と聞くと、「そうだ」。

でも、「右派的な意味で、『合意なし』を支持するのではない。僕は左派系だ」。

国民投票で離脱を支持したのは、保守系・右派が圧倒的だった。セバスチャンさんはずいぶん珍しい。一体なぜ、メイ首相の協定案に反対で、「合意なし」でも離脱したほうがいいと思うのだろう?

「左派系はもともと、EUに懐疑的だったんだよ。巨大すぎる、官僚的すぎるから。市場経済至上主義を推進しているから」。セバスチャンさんは「Brexit: How the Nobodies Beat the Somebodies」という本(2017年)を書いた作家(セバスチャン・ヘンドリー)でもあった。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需

ワールド

アングル:ミャンマー特殊詐欺拠点、衛星通信利用で「

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story