コラム

EU離脱か残留か 翻弄される英国民の今

2019年03月13日(水)17時24分

EU加盟時と全く同じ状態を要求する最大野党労働党も、この離脱協定案に反対した。

メイ首相はEUに掛け合ったが

1月15日、最初の離脱協定案が下院で大否決されると、メイ首相はすぐに「バックストップを何とかする」と言って、EUとの交渉を開始した。

今月11日、EUから新たな合意を取り付けたメイ首相。翌12日、下院に「新協定案」を出したものの、これもまたけんもほろろに否決されてしまった。

なぜ否決されたかというと、一言でいえば「前の協定案とほとんど変わらなかった」からだ。

離脱強硬派が求めたのは、英国がEUからの合意を必要とせずにバックストップを解消できる、法的拘束力がある権利だった。

メイ首相がEU側と新たに合意した文書の1つが、「法的拘束力のある共同文書」。これによって、EUが英国の意思に反してバックストップを続けようとした場合、英国は「正式な紛争」を開始できる、とメイ首相は説明した。

さらに、離脱協定と対になる「政治宣言」には、「共同声明」が加えられた。2020年12月までに、バックストップをこれに代わる案に変更するよう、互いに協力することを定めた。また、「一方的宣言」とされた文書によると、将来の通商関係についての交渉が決裂した場合、英国が一方的にバックストップを解消できる。

しかし、離脱強硬派は「これでは不十分」として新協定案を否決。北アイルランドを英国のほかの地域とは別扱いしてもらいたくないとする、地域政党「民主統一党(DUP)」も反対に回った。こうして、149票の大差で、またもメイ首相は協定案に過半数の支持を得ることができないままとなった。

今後の予定は?

これから、どうなるのか?

まず、13日、「合意なしブレグジット」(離脱のやり方について何の取決めもなく、離脱)を支持するかどうかの採決がある。

ちなみに、離脱条件に合意があって初めて「2020年12月までの移行期間」が有効となるので、「合意なし」では、移行期間の設定が消える。つまり、29日に「崖っぷちから飛び降りるような離脱」となる。

恐らく、下院議員の過半数が「合意なしブレグジットは支持しない(発生させない)」ことを支持すると言われている

これを踏まえて、14日には、EU基本条約(リスボン条約)第50条に定められた2年間の離脱交渉期間を延長するかどうかの採決が行われる。もし「延長するべき」となった場合、メイ首相はEU側に延長願いを出すことになる。

「延長」も問題含み

さて、ここからが、英国からすると、「視界不良」となる。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story