コラム

帰宅途中で殺害されたサラさん 「女性が安心して歩ける環境が欲しい」と英国で抗議デモ続く

2021年03月18日(木)17時24分

女性への攻撃に抗議する女性たち(3月15日、ロンドン・ウェストミンスター) Henry Nicholls-REUTERS

<ロンドンに住む一般女性が帰宅途中に殺害された事件をきっかけに、「安心して道を歩けない」「自分だったかもしれない」と声を上げる女性が続出。追悼イベントにはキャサリン妃の姿も>

今月上旬、ロンドンに住むある女性が帰宅途中で行方不明となり、数日後、遺体となって発見された。現役警察官が誘拐・殺人容疑で起訴された。

この事件は英国に住む女性に大きな衝撃を与えた。「他人事とは思えない」という声が圧倒的だ。

現在、英国のほとんどの地域は新型コロナウイルスの感染阻止のために、不要不急の外出や他者と集うことが禁止されている。

それにもかかわらず、各地で女性の追悼イベントや抗議デモが開かれており、集会の禁止を徹底させるため現場にいた警察官らと一部のデモ参加者との間で衝突が起きる事態にまで発展している。

サラさん事件とは

3月3日、午後9時半ごろ、マーケティング会社で働く女性サラ・エバラードさん(33歳)はロンドン南部クラパムの友人宅を出て、徒歩で緑地公園「クラパム・コモン」を通って、近隣ブリクストンの自宅に向かっていた。

サラさんは自宅にたどり着かないまま、行方不明となった。

10日、警察は南東部ケント州の森林で遺体を発見。12日、この遺体はサラさんであることが確認された。

前後して、9日、ロンドン警視庁のウェイン・カズンズ警官(48歳)が誘拐と殺人の疑いで逮捕され、12日、訴追された。

「安心して夜道を歩けない」ことへの怒り

サラさんが行方不明になったことが報道されると、「午後9時半頃」、「友人宅から自宅に戻る途中」、「公園を通っていた」点など、特に常軌を逸したとは思われない状況下で、30歳を過ぎた成人女性が何者かに誘拐されたことへの衝撃が大きくなった。

「いつでも、だれにでもこのような犯罪が起こり得る」のである。そして、「女性が一人で公道を安心して歩けないのは問題だ」という認識が出てきた。

筆者は3日以降、BBCのニュース番組の中でクラパム・コモンを歩く人々へのインタビューを見た。「夜は外を歩かないようにしている」という女性が多い。

ある男性は「女性だからと言って、安心して公園を歩けないのはおかしい」と述べていた。

サラさんの事件発覚から数日間、「女性は安心して道を歩けない」、「男性から嫌がらせに常時さらされている」ことを公表する女性たちが続々と出てきた。

BBCラジオの「ファイブライブ」に出演したヘレナ・ワディアさんはこう語る。「初めて性的なコメントを投げかけられたのは12歳の時だった」。それからは自己抑制の日々が続いてきたという。

そんな掛け声がかからないようにするには「どんな洋服を着るか、お酒を飲むときはどうするのかを考える。お金がなくてもタクシーを使ったり...ジョギングする時はヘッドフォンを付けなかったり(注:付けていると周囲への注意が怠るため)。街灯がたくさんついているところを選んでジョギングする、とかね。ものすごく、疲れます」。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story