コラム

帰宅途中で殺害されたサラさん 「女性が安心して歩ける環境が欲しい」と英国で抗議デモ続く

2021年03月18日(木)17時24分

ヘレナさんはツイッターで、セクハラを避けるために歩く道を変えたり、走るルールを変えたりしたことがあるかとフォロワーに問いかけた。「ある」という答えの他に、彼女のツイートそのものに、「支持する」という意味の「ライク」が12万回付けられた。

3月8日は国際女性デーだった。野党労働党のジェス・フィリップス議員は国会の場でこの1年間で男性によって殺害された118人の女性の名前を読み上げた。「来年、この名前のリストに入る人が出ないよう、祈り、行動しよう」と呼びかけた。

追悼ストと警察

3月13日、市民団体「通りを取り戻そう(Reclaim These Streets)」が中心となって、サラさんの追悼イベントが企画された。

しかし、コロナのロックダウンが続く中、集会は禁止されている。地元警察と話し合いをしたが、最終的に許可が下りず、「13日午後9時半、自宅のドアの前に出て、追悼する」形で行われることになった。

ところが、実際には、同日、サラさんが姿を消したクラパム・コモンに女性たちが集まり、野外ステージに花を置くようになった。ケンブリッジ公爵夫人キャサリン妃も、この日午後、ひっそりと姿を現し、野外ステージで足を止めた。

夜になって、クラパム・コモンに集まった女性たちの数が大きく増えていた。一部の女性は警察に手錠をかけられたり、追悼場所から排除されたりした。

この時の様子が当日はソーシャルメディアで拡散され、翌日、新聞で大きく報道された。

ロックダウン下での集会は違法であるにしても、女性たちを手荒に扱ったように見える警察への批判が大きくなった。

集会での警備の不手際、そしてサラさんの誘拐・殺害の容疑者が現役警察官であったこともあって、クレシダ・ディック警視総監に対する辞任コールも浮上している。

「UNウィメンUK」の調査によると、18歳から24歳の女性の97%が性的ハラスメントにあったことがあるという。全年齢層の女性80%が公的場所で性的ハラスメントにあったことがある。

サラさん事件を知って、「『自分だったかもしれない』と思わない女性はいない」とコラムニストのエレノア・スティフェルさんは書いている(デイリー・テレグラフ紙、3月12日付)。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story