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「国会議員の特権」問題:文通費改め調査研究広報滞在費の意味不明
不透明な「議員特権」を透明化できる?(写真撮影に向かう岸田内閣の新閣僚、昨年11月) REUTERS-Pool
<日本維新の会が昨年に提起した「文通費」問題は、支払い方式を現状の「月割り」から「日割り」にする改正案が成立した。だが使途が不透明という根本的な問題は先送りされたままだ>
4月24日に投開票された参議院石川選挙区補欠選挙は、自民党の前職・宮本周司氏が野党候補にトリプルスコアの大差をつけて勝利を収めた。投票率は29.93%。補欠選挙とはいえ、前回2019年参議院選挙を約17ポイント下回る過去最低の投票率だ。今夏の参議院選挙を占う前哨戦というよりは、3月13日の県知事選が残した保守分裂と選挙疲れの影響、そして野党側が与党に対抗し得る体制を構築できていない事情が伺われる。
他方で、今回の補選が影響を与えたものが一つある。それは「文書通信交通滞在費」(文通費)の改正だ。昨年11月の特別国会で日本維新の会が問題提起して以来、自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主、共産の与野党6党による協議会で法改正の議論が進められてきたが、4月15日、日割り支給に改める国会法・歳費法の改正法が成立した(共産党を除く与野党が賛成)。
今回の参議院補選によって選出される新議員への文通費支給が従来の「月割り」のままだと、再び国民的批判を浴びるおそれがあったことから、とりあえず日割り支給を導入する法改正が急がれたのだ。
しかし、これは弥縫策そのものだとも言える。与野党協議会でこれまで検討課題とされてきた「使途基準の明確・公開化」や「未使用分の国庫返還」といった点の改正は先送りにされた。
さらに、これまで国会法38条が「公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等の」としていた目的規定が「国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行う」に改まるとともに、歳費法9条が規定する名称が「文書通信交通滞在費」から「調査研究広報滞在費」に改称された。
「調査研究広報滞在費」――。はっきり言って、何がなんだか分からない名称だ。
要するに「議員活動」を行うための手当であり、「議員活動」の例示として「国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等」が列挙され、それを一つにまとめた名称ということだろう。
しかし、広く議員活動に関わる手当ということにするのであれば、むしろ既存の「立法事務費」や「政党交付金」と実質的に重複するのではないかという新たな疑義が生じざるを得ない。
立法事務費は、「国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律」(昭和28年法律第52号)が規定しており、「立法に関する調査研究の推進に資するため必要な経費の一部」として、国会内で議院運営委員会によって認定された各会派に対して、会派所属議員数に65万円を乗じた額が支給されている。支給されるのはあくまでも会派であり、各議員が実際に所属会派から65万円をもらえるかはそれぞれ各会派の方針によるが、いずれにせよ「立法に関する調査研究」の経費という名目で税金から支出されていることに変わりはない。
また政党交付金は、「政党助成法」(平成6年法律第5号)に基づいて、議員数5人以上または直近の選挙における得票総数が2%以上の政党に対して、「国民一人当たり250円」の税金を政党に分配するものだ。「政党の政治活動の健全な発達の促進及びその公明と公正の確保を図り、もって民主政治の健全な発展に寄与」するために設けられたものであり、政党政治の基礎を財政的援助(ファンディング)によって下支えする基幹的制度(ファウンディング)である。今年の交付額は約315億円であり、自民党に約160億円、立憲民主党に約68億円が交付される(共産党は受け取っていない)。
確かに、(無所属議員を含めた)国会議員個人の「議員活動」と、院内会派による「立法調査研究」および(法人格を持ち、政党要件を充たす)政党による「政治活動」は、同じとは言えない。
しかし活動の実質を見る観点からすれば、民主政の根幹を為すのは、全国民の代表としての国会議員一人ひとりの活動である。その活動に対する財政的支援制度としては既に立法事務費と政党交付金が存在している。議員活動に関わる手当として「調査研究広報滞在費」を設ける今回の法改正は「『屋上屋』をたださない」ものだという批判、あるいは「目くらまし」という政治不信を招きかねない。
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