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「国会議員の特権」問題:文通費改め調査研究広報滞在費の意味不明
なぜ民間と同じ「領収書精算」方式にできない?
このコラムではこれまで3回に渡って、(1)1947年(昭和22年)に制定された文通費(当時は通信費)の成立過程や、(2)GHQのジャスティン・ウイリアムズが1946年(昭和21年)9月3日に起草した「新憲法下の議会の諸問題」で郵便料金の無料特権付与を初めて勧告したこと、それに対して、(3)日本側は公の性質を持つかどうかを確認する手間という弊害を回避するために郵送・通信の「手当を支給する」という換骨奪胎を行っただけでなく、その都度精算の手間を省くべく定額を「渡し切り」として一律事前支給する修正を加えた事情を説明してきた。
その上で、せっかくGHQによる特権付与の勧告を否定したにも関わらず、その後、物価上昇等の理由にかこつけて支給額が膨れ上がるとともに、渡し切りのままノーチェックという制度的不備のおかげで特権的な「第二の給与」と化していることを批判し、本来的な「実費の弁償」という趣旨に立ち返るべきであると論じた。
そのような観点からは、領収書公開等によって透明性を担保した経費処理制度と外部的監査制度の導入こそが本質的に重要だ。経費の精算に「日割り」も「月割り」もない。「渡し切り」を維持しようとするから、その支給を「日割り」にするか、残った分を国庫に返還するかどうかという話になるのであり、端的に民間では当たり前の経費精算制度を導入すれば良い。国会議員の職務遂行に必要な費用のうち、国民に「情報を伝達」し、国民が得られた「情報を基に判断」することに資するような行為に限って、個別的に事後精算を認める制度を導入するべきであろう。
4月21日に開かれた与野党協議会では、積み残された課題の結論を今国会中に得るとして、まずは支出として許されない項目一覧(ネガティブリスト)を作成するとしている。しかし、そのような処理の仕方で果たして、昨年来噴出している国民の不信を払拭できるだろうか。また時間的に、6月15日閉会予定の今国会中に更なる法改正が間に合うだろうか。
ところで、GHQは郵便料金無料の「特権」を「Franking privileges」と称していたが、国会法・歳費法における(旧)文書通信交通滞在費については「allowances」(手当)と訳されることが多い。例えば参議院の公式サイト(英語版)は(旧)国会法38条を、
"Article 38.
Members shall receive allowances, as provided for separately, for mailing official documents and for communications of official nature during a session."
と英訳している。
「allowance」は、その限度額内での使用が許容される定額給付という意味合いが強く、例えば給与所得者に支給されることの多い「住宅手当」は「housing allowance」というのが通例だ。これに対して「経費」は、所得税法37条の「必要経費」が「Necessary Expenses」と訳出(日本法令外国語訳データベースシステム)されているように、expenses あるいは単にcostsと表記されることが多い。
果たして今回の「調査研究広報滞在費」は英語でどのように訳されることになるだろうか。それはこの公金支出の性格を物語るものになるであろう。
なお、GHQによる勧告の詳細については、国立国会図書館所蔵マイクロフィルムに基づく調査結果を「国会法38条「通信費」の制定過程におけるGHQ 勧告案と衆議院提出法案の異同について」(研究ノート)として、社会情報大学院大学(4月から社会構想大学院大学に名称変更)の紀要『社会情報研究』第3巻2号に投稿したので、興味ある方はご覧頂きたい。
また、上記研究ノートの脱稿後になるが、国立国会図書館の濱野雄太氏による「文書通信交通滞在費の創設及び改正経過」(調査と情報―ISSUE BRIEF― No. 1175、2022. 2.25)という論文を目にした。主に国会法起草後のプロセスが丹念にまとめられた優れた研究成果であり、ぜひ参照して頂きたい(特に創設当初の通信費がなぜ「250円」(実際には減額修正されて125円)になったのかという点についての示唆は重要である)。
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