コラム

菅政権の浮沈を左右する「40%の壁」とは?

2021年07月19日(月)22時10分

IOCのバッハ会長は菅首相の救いの神か疫病神か REUTERS-Kimimasa Mayama/Pool

<菅内閣の支持率が下げ止まらない。内閣支持率と自民党支持率を合わせた数字が40%を切る前に、国民全体の1回目のワクチン接種率が40%を上回るかどうか。もし実現しなければ、一気に「菅降ろし」の政局が始まりかねない>

菅政権の支持率が遂に3割を切った。個別面接方式で実施される時事通信の世論調査(7月16日発表)によると、政権支持率は29.3%に下落、「危険領域」とされる20%台に突入した(不支持率は49.8%)。7月に実施された他のメディアによる世論調査結果も、

毎日新聞 支持率30%(不支持率62%)
朝日新聞 支持率31%(不支持率49%)
NHK 支持率33%(不支持率46%)
共同通信 支持率35.9%(不支持率49.8%)
読売新聞 支持率37%(不支持率53%)
産経・FNN 支持率39.0%(不支持率55.5%)

となっている。いずれも「政権が発足して以来、支持率は過去最低、不支持率は過去最高」という結果で一致している(産経・FNNは世論調査を再開した今年1月以降の数値比較)。なお、読売新聞の支持率37%は前回の調査(6月)と同じ「横ばい」の数値だが、わざわざ「東京都に限ると支持率28%で過去最低」と同社は報じている。

このように菅政権に対する国民の視線は、かつてないほど厳しいものになっている。時事通信の数値によると、政権支持率(29.3%)を自民党支持率(21.4%)と合わせた通称「青木率」は50.7ポイントに落ち込んだ。青木率とは、政権支持率と与党第一党の政党支持率を合わせた数値が「50ポイントを割り込むとその政権は危うい」とする、青木幹雄元内閣官房長官が唱えたとされる経験則だ。今回の世論調査はそのレッドラインに菅政権が近づきつつあることを示している。

しかし、青木率の50ポイントという数値は、野党第一党がそれなりの支持率を持っていた時代の経験則から帰納的に導き出されたものだ。

例えば2009年6月の世論調査(時事通信社)を振り返ると、当時の麻生内閣の支持率は24.1%、自民党支持率は18.4%で、青木率は「42.5ポイント」だったが、野党第一党であった民主党の支持率は15.5%もあった。翌7月には青木率は31.4ポイントまで下落(政権支持率16.3%+自民党支持率15.1%)したのに対して、民主党の政党支持率は18.6%に伸長。8月30日の総選挙で民主党が圧勝し自民党は下野に追い込まれた。

ところが現在の世論調査では、野党第一党である立憲民主党の政党支持率は4.5%に過ぎない。「支持政党なし」と回答した無党派は63.9%に達している。与党に代替しうる既存野党勢力が見当たらない政治状況の下では、政権レッドラインを示す青木率を「50ポイント」とするのは若干違和感が残る。

本来であれば政権交代可能な野党第一党が持つべき支持率を想定した場合、現実の数値とのギャップが10%前後であると言えることからすると、むしろ青木率を修正して、与党支持率と政権支持率を足して概ね「40ポイント前後」あたりを下回ると政権与党にとって危険領域だと考えるほうが、現在の政治状況の実態に即しているといえるのではないか。そうだとした場合、次回8月実施の世論調査結果は極めて重要となる。政権支持率+自民党支持率の数値が仮に40ポイント前後を下回るような結果になれば、来る総選挙を戦えないとして、自民党内の「菅下ろし」の動きが活発化するであろう。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政府、中国系ハッカーによる大規模メタデータ窃取を

ワールド

原油先物が反発、5日のOPECプラス会合に注目

ワールド

ロシア、シリア指導部との連帯表明 「反体制派に外部

ワールド

ロシア富裕層の制裁回避ネットワークを壊滅、米英が連
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 9
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 10
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story