コラム

職場のあなたは、ここまで監視されている...収集されたデータで「不当解雇」も(調査報告書)

2024年10月03日(木)18時12分
職場での従業員監視ツールが大きく進化している

denniro/Shutterstock

<従業員監視ソフトウェアを使用して、従業員のデジタル活動をほぼすべて追跡。マイクロソフトのTeamsもこうしたツールとして機能する>

[ロンドン発]従業員の自由とプライバシーを守る英国のキャンペーン団体「ビッグ・ブラザー・ウォッチ」は従業員監視ソフトウェア(ボスウェア)についての調査報告書をまとめた。企業が人工知能(AI)など最先端テクノロジーを使って従業員を監視している実態が浮かび上がる。

報告書によると、世界125カ国以上1万社以上が採用する米テラマインド社のソフトウェアを使用すれば、企業はライブ画面の表示、キー操作、閲覧したウェブサイト、ソーシャルメディア上のやりとりなど従業員がコンピューター上で行ったほぼすべてのデジタル行動を把握できる。

求人サイトへのアクセスや労働組合へのメール送信など、特定の行動を使用者に知らせる機能もある。企業は分析機能を使用して従業員がコンピューターを使っていた時間と休止していた時間を比較した生産性レポートを作成し、業務と関係のない行動を特定できる。

いわゆる生産性トラッキングだ。

GPSデータで遅延について配達員を詰問

パスワードなどの従業員のプライベートな情報が記録される可能性もある。テラマインド社は「無制限の監視」が目的ではないと主張しているが、従業員のあらゆるクリックやキー操作を監視しており、マンチェスターの不当解雇事案ではテラマインド社のソフトウェアが使われていた。

郵便・宅配会社ロイヤルメールは米ゼブラ社のPDA(携帯情報端末)を導入。この端末にはGPS(衛星利用測位システム)の追跡機能が搭載され、配達員の配達時間とルートを追跡する。開始時間と終了時間、ルートからの逸脱、配達の遅れなど大量のデータを収集している。

配達員はPDAのデータに基づき圧力をかけられたと証言。配達に時間がかかりすぎだと注意された人もいた。収集されたデータは配達員を詰問するために使用され、管理職による長時間の尋問につながった例もあり、英議会による調査が行われた。

従業員のデータが適切に保護されない限り、不当な監視につながりかねない。

従業員のパフォーマンスをリアルタイムで監視

アマゾンは倉庫における広範囲な職場監視で悪名高い。従業員はPDA、カメラ、リストバンドを組み合わせて厳重に監視されている。 振動で従業員に移動する正しい方向に誘導するブレスレット型トラッカーの特許を取得したが、英国の現場で使用されたという報告はまだない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領が戒厳令、国会は「無効」と判断 軍も介入

ビジネス

米求人件数、10月は予想上回る増加 解雇は減少

ワールド

シリア北東部で新たな戦線、米支援クルド勢力と政府軍

ワールド

バイデン氏、アンゴラ大統領と会談 アフリカへの長期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計画──ロシア情報機関
  • 4
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 5
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 6
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    「92種類のミネラル含む」シーモス TikTokで健康効…
  • 10
    赤字は3億ドルに...サンフランシスコから名物「ケー…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story