コラム

借金大国・日本とは大違い...アイルランドが巨額の「アップルマネー」で4兆円もの財政黒字に

2024年10月09日(水)18時26分
アイルランドが巨額の財政黒字になった理由

Denis Kuvaev/Shutterstock

<海外からの投資を呼び込んだうえに欧州統合の波にも乗って「ケルトの虎」と呼ばれる経済ブームを起こし、「欧州のシリコンバレー」として発展した>

[ロンドン発]アイルランドのジャック・チェンバース財務相は10月1日、来年の予算案を発表した。欧州司法裁判所が米アップルに130億ユーロ(2兆1100億円)の納税を命じたことで今年、過去最高の250億ユーロ(4兆650億円)の財政黒字となり、バラ色の予算案となった。

グローバル企業はアイルランドに2つの子会社を設置する究極の節税スキーム「ダブル・アイリッシュ」を活用し、悪質な租税回避を行ってきた。欧州連合(EU)は違法な税制優遇だとしてアップルにアイルランドへの納税を求めた。

今年の法人税収入は国民総所得(GNI)の8%に相当する380億ユーロ(6兆1700億円)になり、財政黒字は1年前の予想より倍以上に膨れ上がった。来年の財政黒字も120億ユーロ(1兆9500億円)になる見通しだ。借金大国・日本からすれば何ともうらやましい財政状況だ。

「ケルトの虎」と呼ばれる経済ブーム

アイルランドのケルト系民族は12世紀にイングランドによって征服され、1801年に併合された。1922年に北アイルランド6州を除く26州が英連邦内の自治領になり、37年に憲法を制定して共和国として独立。第二次大戦後の49年に英連邦からも離脱した。

経済的苦境、政治的弾圧、ジャガイモ飢饉(1845~52年)が重なり、アイルランドの人口は1841年の820万人から1911年には440万人に激減。450万人以上が国外に脱出した。移民の流出は第二次大戦後の1950年代、80年代の不況時も止まらなかった。

厳しい財政再建と経済改革を断行し、1995~2008年、海外からの投資、欧州統合、ビジネス環境の改善によって「ケルトの虎」と呼ばれる経済ブームを起こす。欧州連合(EU)の中でも低い法人税率12.5%を設定し、テクノロジー、製薬分野のグローバル企業を呼び込んだ。

「欧州のシリコンバレー」に発展

EUの巨大市場へのゲートウェイを求める海外投資家を惹きつけるとともにEUの構造基金や結束基金を使ってインフラを改善。アイルランドは「欧州のシリコンバレー」として発展し、ピーク時には年間国内総生産(GDP)成長率6~10%を記録した。

08年の世界金融危機で不動産バブルが崩壊、10年の欧州債務危機ではEUや国際通貨基金(IMF)の救済を仰ぐも、脅威の成長力で回復を遂げた。しかし、アイルランドの経済と財政はアップルのようなグローバル企業が税制上、知的財産をどの国に置くかで大きく左右される。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な

ビジネス

トランプ関税、「コロナ禍規模の衝撃」なら物価懸念=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story