コラム

「違法な取り立て」に心折れ、自殺者も...富士通のシステムが招いた巨大「冤罪」事件に英国民の怒りが沸騰

2024年01月10日(水)18時07分

システムに欠陥があることを抱え込んだのは誰なのか

英国国教会の司祭でもあるヴェネルズ氏はホライズンの欠陥を調査するよう圧力を受けていた。富士通は1998年、ホライズンを開発した英国企業ICLを完全子会社化した。68年に世界の主要メーカーに対抗できる英国のコンピューター産業を育てるため設立されたICLは大型コンピューターシステムやソフトウェアなどを手掛けていたが、国際競争力を失っていた。

富士通英国ソフトウェア・サポート・センターに01~04年にかけ勤務したリチャード・ロール氏の証言では一晩で50万件もの修正が行われることが度々あった。ロール氏は「ホライズンがクソだということはみんな知っていた。システムを一から書き直す必要があったが、そのようなことは起きなかった。そのための資金もリソースもなかったからだ」という。

ポストオフィス最高顧問弁護士の依頼でホライズンの調査を担当した法廷監査事務所セカンドサイト社長だったロン・ワーミントン氏は筆者に「富士通はICLを買収した時に問題(ホライズン)を受け継いだ。それはひどいものだった。修復されたバグやエラーに関する情報を抱え込んだ責任がいったい誰にあるのか私には分からない」と打ち明けた。

問題の核心はここにある。「システムに欠陥があることを抱え込んだのは誰なのか責任の所在が明らかになることを願っている。富士通が自主的にホライズンの欠陥のため冤罪に苦しんだ被害者に名誉ある補償を行えば、非常に好意的に受け止められるだろう」。富士通にはまだそうする機会が残されているが、もう時期を失したのかもしれない。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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