コラム

エネルギー危機で倒産の連鎖...英経済に失政でとどめ刺したトラス政権、早くも崩壊へ?

2022年10月08日(土)15時11分

英紙ガーディアンは「問題は今後数カ月の間に住宅ローンの金利が上がるのか下がるのか分からないということだ」と指摘する。住宅ローンの上昇に伴い、住宅価格に著しい下降圧力がかかる。ロイズ・バンキング・グループ傘下のハリファクスによると、住宅価格の年間上昇率はすでに11.4%から9.9%に鈍化している。

住宅取得時にかかる印紙税の引き下げ、住宅供給の不足、好調な労働市場が住宅価格を支えているものの、「生活費の危機」の中で金利が急上昇し続けるという見通しが住宅価格により大きな下降圧力をかけると予想される。「英国の住宅価格は来年に少なくとも10%下落する」(住宅ローンの仲介業者)という。

エネルギー価格の高騰で相次ぐ倒産、13年ぶりの高水準

英国家統計局(ONS)によると、エネルギーコストの高騰とサプライチェーンの停滞で今年第2四半期、イングランドとウェールズで建設業、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業を中心に5629社が倒産した。世界金融危機で08年第4四半期、倒産件数は6943件とどん底を記録したが、今回はその影響を引きずる09年第3四半期以来の高水準となった。

倒産件数の内訳は建設業が1039件、卸売・小売業は802件、宿泊・飲食サービス業は611件だ。企業が倒産する割合はコロナ前の4年間に記録された四半期の平均値(3850件)より46%も高くなっている。英国企業の10社に1社以上が「中程度から重度」の倒産リスクを打ち明けており、これからさらに倒産が相次ぐとの懸念を抱かせた。

ONSによると、22%の企業がエネルギー価格を主な懸念事項に挙げ、今年2月下旬の15%から上昇していた。従業員10~49人の企業では30%と増えている。倒産件数の増加は(1)エネルギー価格の高止まり(2)債務返済が困難(3)原材料費の上昇(4)サプライチェーンの混乱など、いくつかの要因が関わっているとみられている。

ガス価格指数は今年第1四半期に昨年同期比の70%増となった。エネルギー価格の上昇は英国企業にとって重大に懸念材料になりつつある。エネルギーコストは企業が値上げを検討する主な要因になっており、企業の約46%がエネルギー価格のために10月に値上げを検討すると回答した。

生活費の危機は深刻化

英中央銀行・イングランド銀行のデイヴ・ラムスデン副総裁は7日の講演で「今年第4四半期のガス先物価格は昨年8月の予想に比べ7倍になっていた。英国はエネルギーの純輸入国であるため、国民所得は減少し、英国経済は貧しくなる。1年前よりもエネルギー価格の上昇によって生活が悪化し、生活費の危機が深刻化する」と指摘した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米政権、大半の輸入品に20%程度の関税を検討 トラ

ワールド

仏極右党首、ルペン氏判決への抗議デモ呼びかけ

ワールド

トランプ氏、エジプト大統領と電話会談 ガザ問題など

ビジネス

金スポット価格が再び過去最高値、トランプ関税懸念で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story