コラム

彼らは行動より抗議が好き...左派「反成長連合」に宣戦布告した、英首相の末期症状

2022年10月06日(木)18時30分

しかし平準化を進めるには産業政策など政府の介入や資金の再配分が必要で、「小さな政府」を掲げてきたビシネス重視の保守党内にはフラストレーションが充満していた。失業者・低所得者向けの社会保障給付(ユニバーサル・クレジット)を賃金の上昇に合わせて引き上げるのか、それともインフレに連動させるのかという党内の議論もくすぶる。

英財務相「経済成長に執拗なまでに焦点を当てる」

ポンド安、債券安、株安のトリプル安の引き金となったミニ予算を作ったクワジ・クワーテング財務相は党大会の演説で「10日前に打ち出した成長計画が少しばかり波紋を呼んでいることは承知している」とだけ触れ、「新しいアプローチが必要だ。経済成長に執拗なまでに焦点を当てる」方針を繰り返した。大胆な規制緩和や投資減税が念頭にある。

221006kmr_tnm02.JPG

成長路線を貫く方針を表明したクワジ・クワーテング財務相(3日筆者撮影)

クワーテング氏は「私たちの前にある道はゆっくりとした管理された衰退の道だ。70年間にわたる高い税負担で、私たちは低成長に直面している。財政規律への鉄のコミットメントに裏打ちされた英国のための新しい経済を構築する」と中期的に政府債務残高の国内総生産(GDP)比を引き下げていくとともに、年2.5%の経済成長を目標に掲げてみせた。

政権発足わずか1カ月で党内どころか閣内すらまとめ切れなくなったトラス氏は意識的に「外敵」を作り出した。「成長を止めようとする者たちに挑戦する。反成長連合が私たちを足止めすることを許さない。労働党、自由民主党、スコットランド民族党(SNP)、先鋭化した労働組合、シンクタンクに扮した既得権益者、環境団体。彼らは行動よりも抗議を好む」

「増税、規制強化、お節介。反成長連合が国中で活動しているのを目の当たりにしている。反成長連合は自分たちの給料を誰が払っているのか分かっているのか」。トラス氏は「反成長連合」に宣戦布告する前に、シェールガス採掘に反対するバナーを掲げて退場させられたグリーンピースの女性活動家2人を「登場が少し早かったようね」と皮肉った。

有権者の関心は「成長」より「分配」

世論調査会社Ipsos英国によると、この1年間で保守党政権の仕事ぶりに満足していない人は51%から70%に増え、英国は悪い方向に進んでいると考える人は55%と良い方向に進んでいると考える人の20%をはるかに上回っている。いま解散・総選挙が行われると獲得議席は労働党368議席、保守党184議席となり、政権交代は確実とみられている。

関心事はインフレと物価が54%(今年1月より43ポイント増)、経済が36%(同11ポイント増)、環境と気候変動が23%(同7ポイント増)、医療は20%(同3ポイント減)。トラス氏は「良い仕事をしている」がわずか18%、逆に「悪い仕事をしている」が50%。クワーテング氏は「良い仕事をしている」が16%、「悪い仕事をしている」が53%だった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story