コラム

「また会いましょう」の言葉で人々を勇気づけたエリザベス女王との別れの涙

2022年09月20日(火)17時58分

新国王をサポートするウィリアム皇太子

英君主は国家元首にして立憲君主制の象徴、儀礼上英軍の最高司令官、英国国教会の世俗の長でもある。女王の信仰心は深く、君主としての仕事は神によって授けられた使命だと信じていたと言われている。体調が急変する前日の9月6日にトラス首相を任命するまで、国家にその身を捧げられた姿に感動したのは筆者だけではあるまい。

チャールズ国王は王位継承に空白が生じないように8日に即位した。戴冠式は来年に行われるとみられている。在位70年で地球を40周したエリザベス女王の足跡は偉大過ぎる。方やチャールズ国王は73歳にして君主としての第一歩を踏み出す。カミラ王妃との不倫が原因となったダイアナ元皇太子妃の悲劇は今も王室の未来に暗い影を落とす。

220920kmr_elf06.JPG

慰労のため警備本部のあるランベス警察署を訪れたチャールズ国王とウィリアム皇太子(9月17日、筆者撮影)

しかも今回、王位継承の諸行事でチャールズ国王が短気を爆発させる場面がTVで大きく映し出された。これをカバーするように、筆者が取材したランベス警察署訪問では予定にはなかったウィリアム皇太子が合流するなど、新国王をサポートする様子が手に取るようにうかがえた。2人とも沿道の市民とできるだけ丁寧に言葉を交わす姿が際立った。

220920kmr_elf07.JPG

車で葬送行進に参加したジョージ王子とシャーロット王女、キャサリン皇太子妃(筆者撮影)

国葬には大きくなったジョージ王子(9歳)とシャーロット王女(7歳)も参列した。しかし、21世紀を担う2人の未来は決して明るくない。王室を廃止して共和制への移行を支持する若者世代が30%を超え、旧植民地では旧宗主国の英国に対し「歴史の清算」を迫る声が強まっているからだ。

マイナスからの船出となるチャールズ国王は女王にラテン語で手向けた「愛と献身の記憶の中で」という言葉を地道に実践していくしかない。その前途は多難だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経済のハードデータは堅調、関税の影響を懸念=シカ

ビジネス

相互関税「即時発効」と米政権、トランプ氏が2日発表

ビジネス

TikTok米事業、アンドリーセン・ホロヴィッツが

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story