コラム

「また会いましょう」の言葉で人々を勇気づけたエリザベス女王との別れの涙

2022年09月20日(火)17時58分

取材の場所取りや写真撮影、原稿執筆に大忙しだった筆者も自宅TVで国葬を振り返り、日本のTV・ラジオ出演も一段落した今、もうエリザベス女王にお会いする機会がないことを思うと、次第に寂しさと涙がこみ上げてきた。沿道で泣き崩れた女性、無言で落涙する退役軍人、嗚咽をこらえきれない英国国教会信徒の胸中がようやく理解できた。

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沿道で落涙する男性(筆者撮影)

筆者がロンドンに赴任した2007年以降、世界金融危機、欧州債務危機、欧州難民危機、テロ、英国の欧州連合(EU)離脱、コロナ危機、ウクライナ戦争、エネルギー危機とインフレ高進と歴史的な出来事が相次いだ。エリザベス女王という「現代英国の礎」(リズ・トラス英首相)を失った英国の将来を思うと底知れない不安がよぎる。

「ウィィル・ミート・アゲイン(また会いましょう)」

英国国教会のジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大主教は国葬で、第二次大戦で「英軍の恋人」と呼ばれた歌手ヴェラ・リンの代表曲『ウィィル・ミート・アゲイン(また会いましょう)』を引用した。「女王陛下はコロナで都市封鎖(ロックダウン)が行われた際、『また会いましょう』という言葉で放送されたスピーチを締めくくりました」

「ヴェラ・リンの歌にある希望の言葉。キリスト教の希望とはまだ見ぬものへの確かな期待を意味します。世界中が感じている悲しみは彼女の豊かな人生と愛に満ちた奉仕から生じています。神への信頼と信仰という女王の模範とインスピレーションに従う者は皆、女王とともに『また会いましょう』という言葉を口にできます」

コロナ危機で英国は欧州最大の死者20万4000人超を出した。筆者も妻と2人きりで長期間ロンドンの自宅にこもり、不安な日々を過ごした。ワクチンを3回接種し、コロナ危機を乗り越えたが、今年に入って妻と2人でコロナに感染し、互いに39度を超える高熱が出て4日前後、寝込んだ。ワクチン接種前に感染していたら、生きていられたかどうか。

「私たちは共にこの病気と闘っており、団結し、断固とした態度をとり続ければ、必ずこの病気を克服できるとみなが確信することを欲します。まだ耐えなければならないことがあるかもしれませんが、より良い日々は必ず戻ってくるでしょう。私たちは再び友人や家族と過ごせるようになります。また会いましょう」という女王の言葉にどれだけ励まされたことか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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