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孫正義氏が米ナスダック再上場を計画する半導体大手アームは「イギリスの国宝」、戦略企業の流出危機に青ざめる英政界
アームを買収した2016年、収益予想を発表する孫正義 Kim Kyung-Hoon-REUTERS
<世界に誇る科学力をテコに多くのユニコーンやデカコーン企業を生み出しながら、資本力に勝るアメリカ市場に奪われ、果てはGAFAMに吸収されてしまうイギリスの悪夢再び>
[ロンドン発]投資株式会社化を目指すソフトバンクグループ(SBG)は2月8日、英半導体設計大手アームの売却を断念すると発表した。2016年、SBGは320億ドルでアームを買収。20年、米半導体大手エヌビディアに約400億ドル相当で売却する契約を結んだものの、独禁当局との交渉が難航し、断念に追い込まれた。
22年度中に米ナスダック市場での再上場を目指す孫正義会長兼社長に英政界から恨み節が聞こえてくる。アームはもともとロンドン市場とナスダック市場に上場していたが、SBGによる買収で非上場の完全小会社となった。イギリスが国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択した直後でテリーザ・メイ英首相(当時)は孫氏に電話で「イギリスへの信頼の証しだ」と祝福した。
孫氏は8日の記者会見で「米当局の独禁法による訴訟が明確になってきた。イギリス、EUなど各国当局が非常に強い懸念を表明している。エヌビディアが提案した解決策で規制当局も納得すると信じていたが、全く相手にしてもらえなかった。エヌビディア側からこれ以上は難しいだろうと契約解消の話があった」と背景を説明した。
アームの再上場先について「アームの取引先は大半が米シリコンバレーの会社。投資家もアームに非常に高い関心を持っている。ハイテクの中心であるアメリカのナスダックが一番適している。他に若干可能性があるのがニューヨーク市場。おそらくナスダックになるだろうと現時点では考えているが、まだ決まったわけではない」との見通しを示した。
イギリスの「国宝」が米市場に流出する
英ケンブリッジに拠点を置くアームは性能が増しても回路の複雑さを増やさない独自の設計で消費電力を抑え、スマホの普及とともにシェアを拡大。クラウド、電気自動車(EV)の需要のほか、スパコンにも進出、計算能力を競うランキングで4期連続の世界一となった理化学研究所の「富岳」にはアームの設計を採用した富士通のプロセッサーが使われている。
「国宝」のようなテクノロジー企業が日本に買収され、ロンドン市場からナスダック市場に持って行かれてはたまったものではない。英紙タイムズは「アームは地球上のほぼすべてのスマホを動かすプロセッサーを製造している。アップル、クアルコム、サムスン電子も利用している」と紹介した上で英政界の苦悩を伝えた。