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「コロナ後」メルケルはどう動く EUは更なる分裂を回避できるか
英仏などと日本の安保協力が進み、また日・EU経済連携協定(EPA)の締結が順調に進んだ背景にも、価値観の共通する日本をアジアのパートナーとして大切にしようという気持ちが強まったことが背景にあります。ただ、その際警戒されているのは実は中国だけではなく、ドナルド・トランプ大統領のアメリカでもあることが皮肉と言えば皮肉です。
どれくらいの規模になるのか、私には予測できませんが、これから世界的に大きな経済危機を経験することになります。その過程で、世界における中国の存在感は、否が応でも増すでしょう。
私は、ここは冷戦初期のジョージ・F・ケナン(筆者注:米外交戦略家、外交雑誌フォーリン・アフェアーズに「X論文」を寄稿し、「封じ込め政策」の理論的根拠となる)の戦略を思い起こすべきだと思います。
日本はEUと協調を
世界中ありとあらゆる場所で中国と張り合おうとするのではなく、戦略的に重要な拠点はどこかを考え、選択的に関与していく。軍事偏重を避け、政治・社会・経済的な手段を重視して、長期戦の覚悟を固める。これしか、日本やEUのような規模のパワーには道はないのではないか。その際、もちろん冷戦期以上に日本と欧州は協調できるところではするべきだと考えます。
木村:ハンガリーやポーランドなど中東欧の立ち位置が微妙です。EUに入りながら中国と天秤にかけていることがうかがえます。そうした国々はEUの価値観からどんどん離れていくのでしょうか。
岩間:これは非常に心配ですね。旧共産圏のEU諸国は、民主化してEUに加盟すれば、西欧諸国と同じような豊かな生活がおくれると思っていました。しかし、実際には格差はまだ存在します。しかも、優秀な人材が国を出て行ってしまい、人口も減少しています。
取り残された人々は、抱え込んだ不満をEUにぶつけています。現在もEUは重要な市場であり、補助金の供給源でもありますが、ずっとある種「二級市民」扱いされ、説教され続けて来た不快感が募りに募っています。
イギリスの脱退により、EU予算全体のパイは小さくなり、しかもコロナ被害を受けた南欧に行く配分が増えれば、東欧諸国に今まで通りの額が行かなくなる可能性が高いです。
そこをうまく中国やロシアに突かれると、かなりガタガタするかもしれません。もちろん国によって、様々な歴史や事情がありますから、一概には言えませんが、まさにこれからしばらくは正念場になると思います。
■岩間陽子(いわま・ようこ)
1986年京都大学法学部卒、88年同大学院修士課程修了、94年同大学院博士後期課程、助手などを経て、98年~2000年在ドイツ日本国大使館専門調査員、2000年政策研究大学院大学助教授、2007年同准教授、2009年同教授、現在に至る。