コラム

「コロナ後」メルケルはどう動く EUは更なる分裂を回避できるか

2020年05月25日(月)12時20分

木村:英国のEU離脱で英仏独の三本柱の一角が崩れる一方で、フランスが停滞からなかなか抜け出すことができません。ドイツ一国でEUの屋台骨を背負っていくのは非常にしんどいと思うのですが、いかがでしょうか。

岩間:それはもう、ギリシャ危機あたりから本当にしんどいです。特にドイツのインフレ嫌い、赤字嫌いの体質で、南欧諸国の財政を立て直そうとすると、様々な軋轢が起こり、双方ともにしんどい思いをしています。お互い少しずつ歩み寄るしかないのですが、人間の価値観は、人生の意味そのものに直結しているので、簡単ではありません。

ただ、今回のコロナ危機が、私たちの生き方を大きく問い直していることは、ピンチでもありチャンスでもあると思っています。この機会に何とかフランスに立ち直ってもらい、せめて二国で屋台骨を背負える状況になってもらいたいです。

今回の「コロナ債」問題がいみじくも示したように、これはドイツだけではなく、オランダやデンマークなどを含んだEU内の南北問題でもあります。しかし、ドイツの経済規模がやはり大きいので、経済規範の違いが、あたかも新しい「ドイツ問題」であるかのような受け止め方がされがちです。しかし私は従来から、これは「ドイツ問題」ではなく、「フランス問題」なんだと言っています。フランスが影響力を取り戻せば、ドイツの問題は自然と目立たなくなるはずです。

イギリスは「順風満帆」

木村:コロナ対策に忙しいEUも英国との離脱交渉どころではないと思いますが、今年末までに離脱後の協定合意は可能なのでしょうか。

岩間:もともとジョンソン政権は、合意なしの離脱をそれほど恐れていません。しかも、コロナで一旦人の動きはほとんど止まり、物の動きも極度に減少しています。ボリス・ジョンソン首相ら強硬離脱派にとっては全てがうまく行っている状況です。

合意なしの離脱で経済が減速した場合、政権のせいにされますが、現在のような状況では、なんでもコロナのせいにできるので、大胆な政策を取りやすくはなっていると思います。

木村:コロナが過ぎ去ったあと、中国がますます存在感を増し、割安になった欧州企業を買い漁るのではないかという懸念が膨らんでいます。ポスト・コロナのEUと中国の関係をどう見ておられますか。

岩間:そのことに関しては、さすがに欧州側にも警戒感が出ており、安全保障上重要な企業の中国による買収を制限しようとする動きが出ています。数年前までは、欧州は中国を巨大な市場としか見ていませんでしたが、さすがにここのところは警戒感が強まってきました。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story