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抜き打ち解散を宣言したメイ英首相の打算(付表:欧州詳細日程)
EUからの移民を全く制限できないならEUから離脱するという有権者の声を受け、メイは人・モノ・資本・サービスという4つの自由移動を認めた単一市場だけでなく、関税同盟からの離脱も決断。これに対し、EU側は「離脱するなら債務600億ユーロの清算金を払え。支払わなければ飛行機もトラックも止まる」とイギリスを恫喝し、離脱ドミノが始まらないようEUの締め付けを図っている。
メイ政権は、離脱交渉は期限の2年内に終わり、新しい貿易協定も締結できると楽観していたが、EU側の態度が極めて強硬なことから、次の総選挙が2020年なら、19年3月末に期限を迎えるEU離脱交渉で足元を見られる恐れがあるとメイは警戒したようだ。
フランス、ドイツに加えてイギリスも
今年、欧州ではオランダ総選挙、フランス大統領選、ドイツ総選挙が行われるほか、ひょっとするとイタリア総選挙もあるかもしれない。最大の山場は何と言ってもフランス大統領選だ。EUの核心は、フランスとドイツの戦後和解にある。フランスとドイツの関係がギクシャクすればEUの結束は大きく揺らぐ。
フランス大統領選の候補者11人のうち、EU統合推進派はマクロンのみ。マクロンとメルケルが結束を固めると、メイにとって離脱交渉は非常に厳しくなる。急進左派メランションが急上昇する中、イギリスとしては離脱交渉を有利に進めるため、フランス大統領選に揺さぶりをかける打算も働いたことは否定できないだろう。
イギリスで総選挙のキャンペーンが始まればEU離脱が最大の争点になるのは必至で、EU懐疑派のルペンやメランションの追い風になる。最終的にマクロンが大統領になっても、ルペンやメランションの勢力が大きくなれば、強い政府は樹立できないからだ。
前首相デービッド・キャメロンは10年、自由民主党の副首相ニック・クレッグと連立を組む際、政権を安定させるため首相の解散権を放棄した。11年議会期固定法で総選挙は5年ごとに5月の第一木曜日に行うことが定められた。議会が早期解散されるのは(1)内閣不信任案が可決された後、新しい内閣の信任決議案が可決されずに14日が経過した場合(2)下院の議員定数の3分の2以上の賛成で早期総選挙の動議が可決された場合――に限られている。
議会期固定法は保守党と自由民主党のどちらか一方の都合で連立を解消して議会が解散することにならないよう互いを縛り合ったもので、連立が解消された今、無用の長物になってしまった。解散権のない首相など、怖くともなんともない。
「政界一寸先は闇」と言われるのは古今東西共通だ。労働党も自由民主党も解散・総選挙を受けて立つ構えだが、総選挙の結果、メイの思惑通りEU離脱交渉に向けて強固な政権基盤を築けるかどうかは、まだ誰にも分からない。