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ドミニク・モイジが読み解くフランス大統領選「怒り」「怖れ」「ノスタルジー」3つのキーワード
最近のフランスには希望も芽生えてきている、というモイジ Masato Kimura
現職大統領オランドが支持率4%という不人気のあまり大統領選への出馬を辞退し、歴代大統領・首相が次々と脱落するという例外的な状況が例外的な人を大統領選レースの先頭争いに押し出した。
モイジはマクロンに関する筆者の質問に答えて言う。「マクロンに対するフランスの感情は『希望』であり、ルペンという過激な変化に対する『現状維持』でもある。例えば、私の近所の人たちはマクロンを好きではないが、ルペンや左翼党(急進左派)のジャンリュック・メランションを警戒している」
「怒りと怖れを強調するルペンVS希望のマクロンという対立軸で見ると、最近、フランスのニュース雑誌が建設的な事例として(移民との共生に取り組む)スウェーデンとカナダを特集した。これはフランスにも(内向きのナショナリズムではなく、協調を志向する)希望が芽生えてきている証のように感じられた」
ナポレオンとファシスト
「マクロンはリベラル社会主義者で、国家は経済など大切な人間の活動に介入すべきではない、介入しなければ前向きな強い躍動が生まれてくると信じている。経済的には完全にリベラルだ。その一方で、社会的弱者には国家が介入して守る必要があると訴えている。マクロンの経済・社会政策はフランス経済を再生させる可能性がある」
マクロンは29歳の時、3人の子供を持つ24歳年上の高校時代の国語教師と結婚した。「マクロンは優秀なテクノクラートだが、彼のパーソナリティーはそれ以上の意味を持つ。マクロンの妻が『ジャンヌ・ダルクと暮らすのは簡単ではない』と話しているように、マクロンは母国フランスを窮地から救ったジャンヌ・ダルクのようにルペンからフランスを守るのが運命だと信じている」
ジャンヌ・ダルクやナポレオン1世のように母国を救う使命があるという強い信念がマクロンにはあるのだ。
ロンドンで子供と挨拶を交わすマクロン(2月) Masato Kimura
一方、モイジは「ファシストの心を持った鉄の女」とルペンを表現した。ルペンはトランプやイタリアの「五つ星運動」指導者ベッペ・グリッロのようなポピュリストとは異なり、非常に抜け目のない有能でインテリジェントな政治家だと警戒する。モイジは「今回の大統領選はフランスだけでなく、欧州、そして民主主義の未来を大きく左右する。それだけに心配だ」と表情を曇らせた。
世界に対して門戸を開放し、自らのアイデンティティーに自信を持ち、未来に向かう親EUの楽観主義と、門戸を閉ざし、必要以上に自らの文化と伝統を強調しないと自信が持てず、ネガティブなナショナリズムを悪用する反EUの悲観主義が真正面から激突している。
モイジは「二度ある事は三度ある」というフランスの故事を引きながら言った。
「ある人はこう予言するかもしれない。イギリスのEU離脱、トランプ大統領に続いて、フランスではルペン大統領が誕生する、と。しかし、こういう見方もできる。極右政党の勝利を阻んだオーストリア大統領選、オランダ総選挙に続いて、マクロン大統領がルペンを阻止する」
悲観主義には理由がある。しかし楽観主義には意思の力が必要だ。フランスには今こそ未来を見据える意思の力が求められている。