コラム

ブレグジットがもたらすカオス 最初の難関は600億ユーロの離脱清算金

2017年03月31日(金)18時43分

メイは交渉期限が2年と短いことからEU離脱と新しい自由貿易協定(FTA)の交渉を同時に進めたい考えだが、EU欧州委員会の首席交渉官ミシェル・バルニエは、イギリスが負う債務を清算するためにEU側から要求されている600億ユーロにぼる離脱清算金とイギリスで暮らすEU市民の地位問題を解決してからでないと離脱後の関係については交渉しない考えを貫いている。

kimura20170331151505.jpg
ケンブリッジ大教授キャサリン・バーナード Masato Kimura

メイは離脱清算金に関し書簡の中でイギリスがEUを離脱するに当たっての「権利と義務」という言葉を使い、全額ではないにしても、いくらかの負担に応じる姿勢をにおわせている。強硬なEUをなだめるため下手に出た格好だ。

ケンブリッジ大教授キャサリン・バーナードは「もし離脱清算金をめぐって双方が正面衝突し、無秩序で災難とも言えるブレグジットになった場合、空の旅が次の日から停止したり、イギリス在住のEU市民の地位が突然、第三国に変わったりするという、とんでもない状況が出来する」と説明する。

前出のLSE教授ホボルトは「カオス(混乱)を避けるためには、イギリスは離脱清算金の支払いに応じればいい。しかし、離脱清算金の支払いを迫られるメイも、イギリスの離脱でEU拠出金の負担が増えかねないメルケルも、有権者に突き上げられるリスクを抱えている」と指摘する。

kimura20170331151506.jpg

ブレグジット交渉は今のところ、間違いなく「泥沼の離婚劇」に向かって突き進んでいる。先のチャタムハウスの調査では、ブレグジットでEUの将来は弱体化すると回答した人は合計で57%近くに達している。勝者なき交渉の行方は全く見通せない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

国内超長期債の増加幅は100億円程度、金利上昇で抑

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加

ワールド

トランプ米大統領の優先事項「はっきりしてきた」=赤

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも30人死
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 8
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 9
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story