コラム

ブレグジットがもたらすカオス 最初の難関は600億ユーロの離脱清算金

2017年03月31日(金)18時43分

しかしドイツ政財官界は「イギリスの市場は小さい。サプライチェーンを支える単一市場の存続こそドイツの利益」と態度を硬化させている。大陸側の見方は予想以上に厳しいのが現実だ。

EU首脳は、強硬姿勢

イギリスのシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)の9カ国調査では、イギリスとの離脱交渉で妥協してでも緊密な関係を保つべきと答えたのはドイツ13.9%、フランス17.2%と低く、一番多いハンガリーでも40.2%にとどまった。

kimura20170331151502.jpg

第一次大戦と第二次大戦の廃墟から築き上げた平和と繁栄は欧州大陸の人々にとっては至高のプロジェクトで、それに損得勘定を優先させて背を向けたイギリスは身勝手以外の何物でもない。欧州の有権者は、イギリスに対するEU首脳の強硬姿勢を強く支持しているのだ。

kimura20170331151503.jpg
ドイツ首相メルケル Masato Kimura

「交渉では私たちの関係をいかに清算するかを最初にはっきりさせなければならない。この問題が片付いてからでないと将来の関係を話し合うわけにはいかない」(ドイツの首相メルケル)。「ハードブレグジット(単一市場からも離脱)の代案になるのはEUから離脱しないことだ」(EU大統領トゥスク)

kimura20170331151504.jpg
EU大統領トゥスク Masato Kimura

イギリスのEU離脱をめぐる政治日程を確認しておこう。

■2017年
3月29日 イギリスがEUのトゥスク大統領に正式に離脱交渉の開始を通告
4月23日 フランス大統領選第1回投票、EU離脱国民投票の実施を公約にする右翼ナショナリスト政党「国民戦線」党首マリーヌ・ルペンと中道政治運動「前進!」の前経済産業デジタル相エマニュエル・マクロンが決選投票に進む見通し
4月29日 イギリスを除く27カ国でEU首脳会議を開催。欧州委員会にイギリスとの交渉を任せることで合意へ
5月7日 フランス大統領選の決選投票。世論調査の結果通りマクロンが勝てば、ブレグジット交渉はイギリスにとって厳しくなる。ルペン大統領が勝てばEUは崩壊に向かう恐れ
5~6月 離脱交渉の開始
9月24日 ドイツ総選挙で首相メルケル率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が4選を果たすかどうかが最大のポイント。ライバルの社会民主党(SPD)は前欧州議会議長シュルツが党首になってからメルケルを追撃するが、3月26日のドイツ南西部ザールラント州議会選ではCDUが勝利を収める
秋 メイ政権がEUを離脱してすべてのEU法を国内法に落とし込む法整備に着手

2018年
10月 離脱交渉を終了
10月~ イギリス議会、EU首脳会議、欧州議会がイギリスとEUの離脱交渉の結果について採決を行う

2019年
3月 イギリスがEUから離脱

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザの医薬品が極端に不足、支援物資搬入阻止で=WH

ビジネス

中国、株式に売り越し上限設定 ヘッジファンドなど対

ビジネス

ステランティス世界出荷、第1四半期は前年比9%減の

ワールド

香港最大の民主派政党、中国が解散迫る=関係者
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた考古学者が「証拠」とみなす「見事な遺物」とは?
  • 4
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 5
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 8
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 9
    右にも左にもロシア機...米ステルス戦闘機コックピッ…
  • 10
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story