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総選挙で愛国野党が大勝、EU拡大の優等生ポーランドを覆う暗雲
EUは経済統合の究極とも言えるモデルである。ポーランドの農家の中にはEU加盟で結束基金に基づき支援を受け、近代化に成功した人もいる。しかし自給自足に近い状態から抜け出せない貧農もいる。外資を利用してビジネスに成功した人もいれば、仕事にありつけない人もいる。EUへの経済統合はポーランド国内で貧富の格差を拡大させ、「勝ち組」と「負け組」を生み出した。共産主義体制下のポーランドでは教育も医療も心配する必要がなかった。しかし、政治や経済のエリート層の出現が、医療など社会サービスの不十分さ、22%に達する若者の失業率と低賃金労働を浮き彫りにする。実際にはポーランドの格差を現すジニ係数は30.8(0は格差がまったくない状態)で、EU平均を若干下回っている。
トゥスク前首相がEU大統領に転出したことで「市民プラットフォーム」は求心力を失った。「理性(親EU路線、自由民主主義)=市民プラットフォーム」対「感情(反EU、反エリート、反体制)=法と正義」という構図は、「市民プラットフォーム」のおごりによって一変してしまった。今年5月の大統領選で、すでに激震は起きている。まったく無名だった「法と正義」のドゥダ氏(43)が、「市民プラットフォーム」の現職コモロフスキ大統領(63)を僅差で破る番狂わせを演じた。その3カ月前まで、1970年代、80年代の反体制運動の象徴だったコモロフスキ大統領の支持率は68%に達していた。しかし同大統領はTV討論を拒否。前出のブラスECFRワルシャワ事務所長らによると、同大統領は「若者が生活に困っているなら転職してカネを借りればいい」と発言して失速した。
大統領選の第1回投票で元ロックスター、クキズ氏(52)=新党クキズ15の党首=の得票率が20.8%に達し、このうち4割以上が若者票だった。独誌シュピーゲル(電子版)によると、公教育の改善に取り組む教育相が自分の子供を私立校に通わせたり、外相がワルシャワの高級レストランで「我々はロシアやドイツと紛争を起こしても大丈夫だ。なぜなら米国に番犬役を与えたからだ」と話すなど、「市民プラットフォーム」は「勝ち組」のエリート臭を撒き散らし、おごりを感じさせるようになった。彼らに「負け組」の痛みや気持ちは分からない。そんな思いが有権者の間に共有された。「貧しい人は恩恵を受けていません。下層の人たちは『市民プラットフォーム』の経済政策への不満を募らせてきました」(ポーランド在住20年以上の邦人男性)