コラム

総選挙で愛国野党が大勝、EU拡大の優等生ポーランドを覆う暗雲

2015年10月29日(木)17時20分

保守強硬派「法と正義」の副党首で次期首相候補のシドゥウォ(前列) Pawel Kopczynski-REUTERS

 10月25日、ポーランドで総選挙が行われ、保守政党で最大野党の「法と正義」が上下両院で単独過半数を獲得、女性副党首のシドゥウォ氏(52)を首相とする内閣が近く発足する。政権交代は8年ぶり。リベラル中道右派「市民プラットフォーム」のコパチ首相は、親・欧州連合(EU)路線による経済成長を強調したが、有権者は格差拡大とエリート政治に拒絶反応を示した。

「これは戦後初の直接選挙制による大統領選が行われて今年で25周年を迎えるポーランドの民主主義にとって前例のない出来事だ」。欧州のシンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)ワルシャワ事務所長、ピオトル・ブラス氏はこう指摘する。総選挙の投票率は50.9%(前回48.9%)。「法と正義」(得票率37.6%)、右派ポピュリストの新党「クキズ15」(同8.8%)、極右政党「KORWIN」が(同4.8%)と、右派3政党の合計得票率が50%を超え、右傾化を印象づけた。「法と正義」は憲法改正を目指しているが、下院出席議員の3分の2以上の賛成が必要なため、今のところ現実味に乏しい。

 2004年のEU拡大以降、ポーランドは07年の7.2%をピークに実質国内総生産(GDP)で通算52.8%増の成長を遂げている。新自由主義をとり入れ、「ドイツやフランスと並んでEU政治の主流になろう」(トゥスク前首相、現EU大統領)を合言葉に親EU路線を邁進した「市民プラットフォーム」の功績は大きい。購買力でみた国民1人当たりGDPはEU平均を100とした場合、04年から14年にかけ、49から68に上昇した。EU加盟で先進国へのキャッチアップを目指した経済政策は見事なまでの成功を収めた。

「法と正義」のレフ(10年4月の政府専用機墜落事故で死去)、ヤロスワフ・カチンスキの双子がそれぞれ大統領と首相に就任した05~07年、アイルランドの国民投票を口実にEU基本法(リスボン条約)への最終署名を遅らせるなど、ポーランドとEUの関係はギクシャクした。「法と正義」が政権につけば、EUとの摩擦が以前のように大きくなり、経済にブレーキがかかる恐れがある。それなのに、なぜ有権者は「法と正義」を選んだのか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 6
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story