- HOME
- コラム
- 欧州インサイドReport
- 総選挙で愛国野党が大勝、EU拡大の優等生ポーランド…
総選挙で愛国野党が大勝、EU拡大の優等生ポーランドを覆う暗雲
「法と正義」のドゥダ大統領を誕生させた影の功労者が、次期首相に就任するシドゥウォ氏。ポーランド南部の出身で、父親は炭鉱夫。あまり笑わないが、やわらかな物腰で地に足のついた人柄が、「黄金の10年」に浮ついた「市民プラットフォーム」とコントラストをなし、陰謀論者として知られるカチンスキ党首の毒を打ち消した。大統領選に続いて総選挙でも、「勝ち組の擁護者『市民プラットフォーム』」「負け組に寄り添う『法と正義』」と対立させる選挙戦略が大成功した。「市民プラットフォーム」のコパチ首相は、つまらないテクノクラートで、権力志向が強く、傲慢な新自由主義者に仕立てあげられた。
「法と正義」が大統領選や総選挙で訴えたのは典型的なバラマキだ。年金受給年齢の67歳から65歳への引き下げ、75歳以上の医療費免除、1人120ユーロの育児手当、最低賃金の引き上げ、付加価値税と法人税の減税、中央銀行による金融緩和、銀行やスーパーマーケットチェーンなど外資系企業を狙い撃ちにした新税導入、国内産業の優遇政策...。「法と正義」が政権につく4年間はユーロ導入はない。しかし年金受給年齢の引き下げだけでも500億ズロチ(約1兆5570億円)の財源が必要で、「法と正義」が言うようにVAT(付加価値税)などの徴税強化だけで担保できるのかどうか、甚だ疑問だ。
黒幕のカチンスキ党首はドゥダ大統領やシドゥウォ新首相を前面に押し出してきた。しかし、未曾有の難民が欧州に押し寄せた危機では「ギリシャの島ではコレラが、ウィーンでは赤痢が確認された。寄生虫や細菌は難民にとって無害かもしれないが、ここ(欧州)では危険だ」と本音をだし始めた。有権者には難民受け入れより、国内の格差解消を優先してという要望が強い。「法と正義」は今後、難民受け入れ割当制の導入に反対したハンガリーやチェコ、スロバキア、ルーマニアに同調するとみられる。ポーランドの伝統と価値を重んじる「法と正義」はドイツのEU支配に対する抵抗感が強く、宗教的に保守で同性愛や同性婚を認めていない。石炭火力発電の保護も一段と強く打ち出しており、EUの温暖化対策との摩擦が大きくなるシナリオも想定しておく必要がある。
プーチン露大統領がウクライナに続きシリアに軍事介入した今、ロシアを警戒するポーランドはEUとの結束を強めるしかない。有権者は「変化」を求めたが、EUの枠内で「法と正義」政府が取りうる選択肢は限られている。右傾化ポピュリズムの幻想はそう長くは続かない。カチンスキ党首の考え方は、新自由主義から国家資本主義への切り替えを目指すハンガリーのオルバン首相に似ている。EUのさらなる統合にはブレーキがかかるだろう。今後4年間のポーランドは、良くなるというより、いかに悪くならないかが最大の焦点だ。