コラム

新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす世代間の対立と宗教間の対立激化

2021年12月11日(土)19時52分
ソウルのPCR検査会場

1日の新規感染者数が7000人を超え、臨時のPCR検査センターに並ぶ韓国人(12月8日、ソウル) Heo Ran- REUTERS

<恵まれない若者世代と豊かな高齢世代がそれぞれ新型コロナウイルス感染の発生源となったことや、文政権打倒を叫び防疫対策も守らない宗教右派の存在が、韓国国内の感染拡大と対立激化を煽っている>

韓国では新型コロナウイルスの感染拡大と共に世代間と宗教間の対立が深刻化している。12月7日の1日あたりの新規感染者数は7,174人で過去最高を記録した。その後も感染は収まらず12月9日まで三日連続で新規感染者数が7,000人を超えた。

韓国における1日当たりの新規感染者数と累積感染者数の推移

kim20211211163401.jpg
出所)韓国疾病管理本部ホームページから筆者作成

韓国政府は新型コロナウイルスのさらなる拡大を防ぐため、今後(1)ファイザー製やモデルナ製のワクチンを中心に日本より早く11月から始まった3回目の接種率(12月10日現在11.8%)を増やすことと、(2)新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、飲食店の営業時間の制限など規制を強化する方針である。

従前の世代間対立を増幅

新型コロナウイルスの感染が拡大する中で世代間の対立に続き、宗教間の対立も広がろうとしている。韓国社会における世代区分は、大きく(1)ベビーブーム世代(1955年~1963年生まれ)、(2)386世代(1960年代生まれ)、(3)X世代(1970年代生まれ)、(4)Y世代(1980年~1995年生まれ、ミレニアル世代ともいう)、(5)Z世代(1996年~2012年生まれ)に区分することができる。その中で世代間の対立は主に386世代とそれ以降に生まれた世代、そして若者世代や高齢者世代を中心に発生している。

386世代とは、1990年代に年齢が30代で、1980年代に大学生活を送り民主化運動にかかわった1960年代に生まれた者を指しており、(30代、80年代、60年代の3,8,6を取って386世代と称する)現在はほぼ50代になったことで、最近では586世代とも呼ばれている。

韓国社会の中心とも言える386世代は、政治や経済に与える影響力においてX世代やY世代を大きく上回っている。1960年代生まれの386世代は、1970年末〜1980年代に大学に入学した。当時の高校卒業生の大学進学率は3割を少し上回っていたので、約7割が大学に進学する今とは大学生の存在感が大きく異なる。

386世代は学業より学生運動や民主化運動に重きを置いたにもかかわらず、大きな問題なく労働市場に加わることができた。だが、1997年に起きたアジア通貨危機により状況は急変した。ウォンが暴落し、金利が上昇すると企業倒産が相次き、街には失業者が溢れた。アジア通貨危機の影響はX世代やその後のY世代、そして最近のZ世代まで及んでいる。卒業すれば正規職が当たり前だった386世代とは異なり、X世代やY世代、そしてZ世代の多くは非正規職として労働市場に参加した。その結果、386世代との間で所得格差が発生し対立が広がった。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story