コラム

韓国政府が手厚い子育て支援策を決めたが、出生率向上は今度も難しい?

2021年01月12日(火)13時40分

韓国の出生率を地域別に見ると、ソウル市(出生率0.72)、釜山市(同0.83)、太田市(同0.88)、光州市(同0.91)の出生率は全国平均0.92をさらに下回っている。地域間における出生率に差があり、大都市を中心に出生率の低下が広がっていることがうかがえる。

■韓国における地域別合計特殊出生率(2019年)
kimchart3.png
出所)韓国統計庁「2019年出生統計」より筆者作成

韓国の国会立法調査処は2014年、今後、出生率が現在の水準(2013年:1.19)のままなら、2014年時点で5075万人(将来人口推計)である韓国の人口は、2056年に4000万人になり、2100年には2000万人に半減すると予想した。

また2136年には1000万人まで人口が減り、2256年には100万人に人口が急減し、少子化が改善されない場合、韓国は2750年には消滅すると予測している。2019年の出生率が0.92であることを考慮すると、人口減少のスピードは上記の予測よりさらに速くなる可能性が高い。

韓国における少子化の原因は、子育て世帯の経済的負担の問題だけではなく、未婚化や晩婚化の影響も受けている。しかしながら、今までの韓国政府の少子化対策は、出産奨励金や保育費の支援、児童手当の導入や教育インフラの構築など主に子育て世帯に対する所得支援政策に偏っている。2020年12月に確定された「第4次少子・高齢社会基本計画」も子育て世帯に対する支援策が大部分を占めている。

今後、韓国が少子化問題を解決し、出生率を引き上げるためには子育て世帯に対する対策だけではなく、未婚率や晩婚率を改善するための対策により力を入れるべきであり、そのためには何よりも安定的な雇用を提供する必要がある。

韓国政府は若者を中心に約10万人の雇用を創出すると発表しているものの、新型コロナウイルスの影響もあり若者の就職状況はさらに悪化している。今後、若者を中心に広がる不安定雇用や雇用不安が出生率にマイナスの影響を与え、さらなる出生率の低下や人口の急減に繋がるのではないか懸念されるところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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