なぜテレワークは日本で普及しなかったのか?──経済、働き方、消費への影響と今後の課題
一方、テレワークの普及は、年功序列や終身雇用を前提としていた日本の「メンバーシップ型雇用」を、個人の仕事と責任の範囲が明確になる「ジョブ型雇用」に変える要因にもなりえる。そうなると、現在、政府が働き方改革の一環として実施している「同一労働同一賃金」がより実現しやすくなり、非正規労働者の処遇水準は今より改善されると予想される。
但し、一部の企業では処遇水準が改善された非正規労働者を雇用する代わりに、人件費の負担が少ないフリーランスやギグワーカー(gig worker)、そして外部委託を増やす可能性もあろう。また、新型コロナウイルスを機に書類の電子化が進むこともそういった業務の外注化を促進する要因になると考えられる。
ここで、ギグワーカーとは、クラウドワーカーとも呼ばれ、インターネットのプラットフォームを通じて単発の仕事を依頼したり請け負ったりする働き方をする人である。彼らの場合は、労働基準法などが適用されず法的に保護されていない。そのため、彼らをこのまま放置しておくと、新しいワーキングプアが生まれ、貧困や格差がより拡大する恐れがある。テレワークの普及がもたらすプラスの面だけではなく、マイナスの面も考慮し今後の対策を推進していく必要がある。
新型コロナウイルスの影響による景気の低迷とテレワークの普及は消費者の消費心理や消費行動にも影響を与えた。内閣府が5月末に発表した「消費動向調査」によると、消費者心理を示す一般世帯(2人以上の世帯)の「消費者態度指数」*1は24.0となり、過去最低値であった4月の21.6より2.4ポイント上昇した。
2019年12月以降5カ月ぶりの上昇で、政府による緊急事態宣言の解除による経済活動に対する期待が高まった結果ではあるものの、消費者心理が新型コロナウイルス発生以前の水準に回復するまでにはまだ時間がかかりそうだ。
一方、総務省が6月5日に発表した「家計調査」によると、4月の二人以上世帯の消費支出(実質)は、前年同月に比べて11.1%も減少したことが明らかになった。前年同月比の項目別では、パック旅行費が97.3%、交通が73.0%、一般外食が67.0%、被服及び履物が55.4%も減少した。
外出自粛により旅行や外食が以前より減少し、テレワークの実施により交通や洋服に対する支出が減少したのが原因である。一方、設備材料は73.5%、酒類は21.0%、穀類は10.7%消費が増加した。テレワークをするための環境整備や中食や内食、そして家飲みなどが増加したからである。
テレワークが現在より普及すると、家で過ごす時間が長くなることにより、ネットショッピングを中心とする非対面の消費行動が普遍化するだろう。通勤のために必要なスーツや化粧品、バックや靴などの消費は減少し、関連市場は縮小される可能性が高い。
一方、自宅でより楽に仕事をしたり過ごすための消費は増え、外食よりはフード デリバリーや中食、そして内食の割合が増加すると予想される。また、しばらくの間は、リスクのある映画館に行くより、NetflixやU-NEXTのようなサブスクリプションを利用して映画などを鑑賞しようとする傾向が強くなると考えられる。
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*1 消費者態度指数とは、内閣府によって毎月行われる消費動向調査の中の数値のひとつで、消費者の今後6ヶ月間の消費動向の見通しを表している。調査は、雇用環境、収入の増え方、暮らし向き、耐久消費財の買い時判断を、消費者がそれぞれ5段階に評価することで行っており、回答者全員が「良くなる」と答えると消費者態度指数は100、全員が「悪くなる」ならば0、全員が「変わらない」ならば50になるように設計されている。
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