なぜテレワークは日本で普及しなかったのか?──経済、働き方、消費への影響と今後の課題
5)テレワークに適していない業務の存在
五つ目の理由は、テレワークに適していない業務が存在していることである。テレワークは、女性と高齢者、そして障がいを抱えている労働者の継続雇用を可能にするとともに、生産性の向上、企業のイメージ向上、オフィス関連支出の削減、ワーク・ライフ・バランスの実現、感染症リスクの回避など、多くのメリットがあるものの、すべての業務に適しているわけではない。
特に、設備及び機械を必要とする製造業や、現場での作業が多い建設業、高齢者介護施設や医療施設、運送業、サービス業などの場合は、テレワークを実施することがなかなか難しい。総務省の調査によると、2019年時点でのテレワークを導入していない最大の理由は、「テレワークに適した業務がないから」が71.3%で、2番目の「情報漏洩が心配だから」の22.3%を大きく上回った。
テレワークを導入しない理由(2019年)
3. テレワークで変わる経済、働き方、消費
国際通貨基金(IMF)は、2020年4月に発表した世界経済見通しで、2020年の世界経済の成長率はマイナス3.0%(日本はマイナス5.2%)になり、1930年代の世界恐慌以降で最悪の景気後退に直面すると予測した。また、6月末に公表した世界経済見通しでは今年の世界経済の成長率をマイナス4.9%と予測した(日本はマイナス5.8%)。4月の予測値より1.9ポイントも低い数値である。今後、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬が開発され、新型コロナウイルスが終息を迎えるまでは、世界経済が元の状態に戻ることを期待することは難しいだろう。
新型コロナウイルスとの闘いが長期化することが予想されるなかで、政府は、労使団体や業種別事業主団体などの経済団体に対し、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に基づき、まん延防止のために外出の自粛、イベント等の開催制限、施設の使用制限とともにテレワークや時差出勤などの実施を要求した。
では、テレワークの普及は経済にどのような影響を与えるのだろうか。日本におけるテレワークの経済効果に対する分析は、主に通勤時間の削減に注目して行われている。第一経済研究所は2018年の報告書で、東京に約262万人が通勤することによる機会損失は、8.6兆円に達するとの分析結果を発表した。
また、262万人の中で、テレワークを利用する人が増えていくと、その分機会損失は減少し、経済にプラスの効果を与えることや、テレワークにより通勤等が減って自宅で仕事ができるようになると、少子化に歯止めをかける効果が期待できることを提案した。
みずほ総合研究所は、2018年の調査で、テレワークをすることで通勤時間を削減すれば、GDPを約4,300億円押し上げる効果があると推計した。また、女性や高齢者が労働市場に参加し、個人とチームの生産性が向上すれば、経済効果はさらに大きくなる可能性があると分析した。
実際に、テレワークの普及は、現在日本が直面している労働力不足の問題を解消するのに効果があると考えられる。日本における15~64 歳の生産年齢人口の減少は著しく、2019年10月1日現在の生産年齢人口は7507万2千人で、前年に比べ37万9千人も減少した。生産年齢人口が全人口に占める割合は 59.5%と、ピーク時の1993年の69.8%以降、一貫して低下しており、今後もさらに低下することが予想されている。
生産年齢人口(15~64 歳人口)の推移
今後、テレワークが普及し、ワーク・ライフ・バランスが実現しやすくなると、今まで、家事や育児、そして介護が原因で労働市場に参加することを躊躇していたり、パートやアルバイトなどの短時間労働者として労働市場に参加していた女性が、より積極的に労働市場に参加できるようになるだろう。また、テレワークの普及は、高齢者がより長く労働市場に滞在することも可能にし、女性の労働供給とともに労働力不足解決にプラスの影響を与えると考えられる。
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