コラム

日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(4)軽症者の隔離・管理対策:「生活治療センター」

2020年05月11日(月)10時55分

「生活治療センター:大邱1」が稼働すると、医療従事者のために防護服(レベルD)セット1000個、ラテックスグローブ2100個、N95マスク3000個、そして自己管理衛生キット220個、検体採取キット320個などが政府から優先的に支給された。

「生活治療センター」に入所した患者には体温計と必需医薬品などを含む個人衛生キットや個人救護キット(下着、洗面道具、マスクなど)が入所時に配られ、毎日3回の食事や間食が無償で提供された。患者は毎日2回自ら体温を測り、スマートフォンに事前にインストールした健康管理アプリケーションに入力した後、問診票と共に転送する(一部の「生活治療センター」では手書き)。

患者のバイタルを一カ所で集中管理

また、ブルートゥース血圧計で血圧を測ると心拍数と血圧の数値が自動的に「生活治療センター」の中央状況室に転送される。医療従事者は中央状況室に設置されている大型モニター等から患者から送られた体温などの情報を確認し、赤いランプが点灯・点滅した場合には該当する患者に電話して状態を確認する。

■「生活治療センター」の中央状況室に設置されている患者モニタリング画面の例
Kim_Chart2.jpg

注)患者の体温等に以上があった場合には赤いランプが点灯したり点滅する。
資料:「生活治療センター」の中央状況室のモニターを参考に筆者作成

患者の診療は基本的に電話で行われるものの、患者の症状が悪化した場合や検体を採収する時には医療従事者が患者の個室を訪ねる。「生活治療センター」は、感染防止のために患者の個室がある病棟と医療従事者や他のスタッフが生活するクリーンゾーンを分離している。医療従事者が患者のいる病棟に入る時には、レベルDの防護服に着替え、検体を取るか診療を行う。そして、診療の結果、症状が悪化し病院での入院治療が必要だと判断すると、患者を病院に移動させる。一方、病院で入院治療を受けていた重症患者の症状が良くなると、治療担当医師や患者管理班の判断により「生活治療センター」に移動される。

3月3日に大邱市の「中央教育研究院」が稼働してから、政府の要請を受けたサムスン、LG、現代自動車、大邱銀行、企業銀行などの企業が次々と自らの研修院等を「生活治療センター」として無償で提供した。その結果、3月15日には全国で16カ所の「生活治療センター」が稼働し、入所した2633人の患者が隔離・管理されることになった。

その後、感染者が減少して「生活治療センター」への入所者も減ったので、韓国政府は4月30日に海外からの入国者のために新しく設置したソウル付近の2カ所の「生活治療センター」を除いて、既存の16カ所の「生活治療センター」を全て閉鎖すると発表した。

■中央事故収拾本部指定「生活治療センター」運営現況
Kim_Chart3.jpg

資料:medifonews 2020年3月20日

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story