コラム

日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(1)検査体制

2020年04月02日(木)17時22分

このような背景もあり、韓国では2020年3月31日現在全国341カ所の「国民安心病院」や612カ所の「選別診療所」などで新型コロナウイルスに対する検査や診療が行われている。国民安心病院とは、院内感染を防ぐために、呼吸器疾患を抱えている患者を病院の訪問から入院まですべての過程において、他の患者と分離して診療する病院である。韓国政府は、発熱、咳、呼吸困難などの症状があるものの疫学的関連性(海外、大邱・慶尚北道地域への訪問、感染者との接触)がない場合には「国民安心病院」を、疫学的関連性がある場合には「選別診療所」を訪ねて診療を受けることを奨励している。

韓国では国民安心病院と選別診療所での検査以外に、「ドライブスルー検査」や「ウォーキングスルー検査」も実施されている。「ドライブスルー検査」が屋外に設置されている選別診療所を訪ねて、車に乗ったまま検査を受ける検査方法であることに対して、「ウォーキングスルー検査」は、一人ずつ歩いて公衆電話ボックスの形をした透明の検査ブースに入り、待機している医師が外側から検体を採取する検査方式である。ブース内にはウイルスが外部に漏れないように内部の圧力を外部より低くする陰圧装置が設けられている。検査時間は約3分でドライブスルー検査の10分より早いそうだ。「ウォーキングスルー検査」は、医師と被験者の飛沫感染リスクが低いこと、車のない患者や高齢者でも安全に検査が受けられること、検査が早く済むことなどのメリットがあると言われている。同検査方式は、3月16日にソウル市の病院で初めて導入されてから少しずつ全国に普及し、さらに、3月26日からは仁川国際空港で開放型の「ウォーキングスルー検査」が実施されている。

規則を守らない帰国者には罰金

韓国政府が空港で「ウォーキングスルー検査」を実施することになったのは、ヨーロッパなど海外からの帰国者の感染者数が急増したからである。韓国政府は3月22日からヨーロッパからの入国者全員に対して全数検査を実施したものの、入国者が予想を上回り、検査人員が足りなくなり、検査が遅れるケースが発生したため、計画を全面的に見直し、症状がある場合は空港で、症状がない場合は帰宅してから3日以内に検査を受けるように変更した。

さらに、4月1日からは海外からのすべての入国者を14日間隔離するように防疫管理を強化した。この措置により、海外からの入国者は、症状がある場合は空港で検査を受け、症状がない場合には韓国政府や地方自治体が用意した「臨時施設」に移動し検査を受けなければならない。検査の結果が出るまでの1~2日間は施設に隔離され、結果が陽性である場合は、病院に運ばれ、入院・治療を受けることになる。一方、陰性と判断された者に対しては帰宅してから14日間、自己隔離装置が義務付けられる。海外からの入国者が規則を守らなかった場合には1年以下の懲役、または1,000万ウォン以下の罰金が科せられる。検査費用や治療費は韓国政府が負担するものの、隔離施設の利用は自己負担になる。 以上が新型コロナウイルスに対する韓国の検査体系の概要である。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国の半導体関税、台湾経済部長「影響をシミュレーシ

ワールド

イランとの合意、ウラン濃縮と兵器の検証が鍵=米政権

ワールド

米財務長官がアルゼンチン大統領と会談、経済改革を評

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株上昇や円高一服受け幅広く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story