コラム

テレワークを大企業の特権で終わらすな

2020年03月13日(金)17時40分

テレワークを導入する企業も増えてきたが、日本の多くの労働者にとってはいまだ絵に描いた餅 kimberrywood-iStock

<新型コロナウイルスで働き方の格差がますます広がる?>

新型コロナウイルス対策としてテレワークに関する関心が高まる

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在宅勤務を含むテレワークに関する関心が高まっている。総務省の定義によると、テレワークとは「ICTを活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」であり、大きく、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイルワークに区分することができる。

新型コロナウイルスに対する対策として、在宅勤務日数を増やす企業も増えており、会社のオフィスに出社せず、自宅やレンタルオフィスなど、会社から離れた場所で業務を遂行するリモートワークを実施する企業も増加している。レノボ・ジャパンは最近、原則としてテレワーク勤務を推奨しており、本社オフィスのテレワーク勤務者の比率は通常の平均20%から3月11日時点には86%まで増加した。会議は原則としてオンラインで実施し、出勤が必要な場合は時差出勤するように奨励している。

また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リスクヘッジのために一時的にオフィスを分散する企業も増加している。貸会議室を運営・管理する株式会社ティーケーピーは、企業からの要望を受け、3月11日より自社の貸会議室をオフィスとして企業へ提供するサービスを開始した。

テレワークの導入率には企業間で大きな差が存在

経団連が3月9日に発表した調査結果によると、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ対策として、テレワークや在宅勤務を始めたり予定していたりする企業は、回答企業の7割にのぼっていることが明らかになった(会員企業1,470社のうち398社が回答)。「検討中」と回答した企業も19%に達する。但し、経団連の会員企業には、いわゆる大企業が多く含まれており、この調査結果だけで、日本全体の状況を把握することは難しい。

そこで、少し古いデータではあるものの、企業規模別のテレワーク導入率を見るために、総務省が実施した「平成30年通信利用動向調査」をみてみる。同調査における企業のテレワーク導入率は2012年の11.5%から2018年には19.1%まで上昇している。しかしながら、企業規模別の導入率(2018年)は従業員数「100~299人」が14.5%で、従業員数「2,000人以上」の46.1%を大きく下回っており、企業規模によりテレワークの導入率に大きな差があることが分かる。

kim200318_telework.png

テレワークの一部とも言える在宅勤務もいまだ定着していない。総務省が発表した「平成29年通信利用動向調査」によると、企業の在宅勤務の導入率は29.2%で3割を下回っている。最近の調査結果でも在宅勤務の導入率は改善されていない。旅行事業などを行っている株式会社エアトリが今年の2月に20代~70代の男女1,322人を対象に実施したインターネット調査の中で、会社の経営者や役員のみを回答対象とした設問の結果によると、勤務先に「在宅勤務制度」があると答えた回答者の割合は23.3%に過ぎなかった。企業が在宅勤務制度を取り入れていない理由としては、「導入してほしいという意見が挙がっていない」(33.3%)、「勤務をきちんと行ったかどうかの確認がしづらい」(33.3%)、「導入するきっかけがなかった」(27.3%)が上位3位を占めた。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が

ビジネス

カナダ、63億加ドルの物価高対策発表 25年総選挙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story