コラム

テレワークを大企業の特権で終わらすな

2020年03月13日(金)17時40分

一方、雇用者を回答対象とした設問の結果では、在宅勤務制度が導入されたら利用したいと回答した割合は約9割(「積極的に利用したい」43.1%と「時々利用したい」46.4%の合計)にのぼった。しかしながら、在宅勤務制度が制度として存在しても6割弱の人が「利用したことがない」と回答しており、制度の導入状況と利用状況の間にも隔たりがあることが分かった。事務系の仕事では在宅勤務が相対的にしやすいことに比べて、工場や建設現場などの仕事では在宅勤務自体が難しいのがその主な原因であると考えられる。しかしながら、実際は在宅勤務が利用できる業務に従事している場合でも、上司の機嫌をうかがい、また、昇給や昇格、評価等で不利になるのではないかとの思いから、在宅勤務を利用していない人も少なからずいるのであろう。一方で、上司の中にも、部下が仕事をしている姿を目の前で確認しないと不安で仕方がないと思う人が存在しているのであろう。

個人や家族の満足度を高める働き方について考えよう

今まで日本の労働者、特に男性労働者の多くは自分や家族の満足度よりは会社の満足度を高めるために働いてきた。サービス残業や休日出勤を当たり前に考え、有給休暇も取得せず、会社の指揮・命令には服従する「会社人間」として働く人が多かった。しかしながら、経済のグローバル化が進み、企業競争が激しくなると、終身雇用(長期雇用)が崩壊し始め、非正規労働者を中心とする不安定雇用が増加することになった。さらに、企業の賃金体系も年功賃金が占める割合は縮小され、その代わりに成果給が占める割合が高くなった。企業は以前のように雇用や賃金の保障を維持できない仕組みに変わりつつある。

そこで、労働者はリストラされないために、また、給料が下がることにより家族の生活水準が低下しないように、もっと働かざるを得なくなった。このような働き方は、メンタルに問題を抱える人や過労死でなくなる人を増やす結果をもたらした。政府は労働力不足の問題を解決するとともに、長時間労働による弊害をなくし、生産性を引き上げるために2019年4月から働き方改革を実施している。 働き方改革の一環として1日、1か月、2~6か月、1年の残業時間に上限が設定された。その結果、一部の労働者や企業における労働時間は減少したものの、日本全体の状況は大きく変わってはいない。法律で残業時間の上限が制限されているので、会社のオフィスで働く労働時間は全体的に減ったものの、会社以外の自宅やカフェなどでの隠れ残業が増えたからである。最近、電車などの広告で「自習室」の宣伝をよく目にするが、このような広告が増えたのは、会社以外で働く場所を求める労働者の需要が増えたのが原因かも知れない。

休日も休まず働くことにより給料が上がっても、本人や家族の生活に対する満足度はそれほど上がらないだろう。本人の休む時間と、家族とともに過ごす時間が犠牲になるからである。OECDが実施した生活満足度調査によると、日本の点数は5.9点(38か国中29位)でOECDの平均値6.5点を下回っている。一方、GDP規模が日本に匹敵しているドイツの生活満足度は7.0で日本を大きく上回っている。なぜドイツ人の生活満足度は高いのだろうか?

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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