コラム

マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

2024年04月23日(火)19時47分
為替市場では円安が進行中

SEFA OZEL/ISTOCK

<日銀が金融政策を転換した後も、為替は円高に戻すどころか円安がさらに進行。予測を外した関係者たちが「見落としていた」ものとは?>

日銀が「マイナス金利の解除」という政策転換を実施したにもかかわらず円安が進んでいる。多くの関係者が、金融政策の転換が行われれば円高に戻すと説明していたのに、その逆になっている背景には、為替市場に対する認識不足がある。

為替というのは相対取引であり、相手が存在する以上、日本側の要因だけで市場を動かすことはできない。この原稿を書いている時点で為替介入は実施されていないが、仮に行われたとしても、相手の経済環境を変えることは不可能であり、抜本的に円高トレンドに戻すのは難しいだろう。

仮に円高に転じることがあるとすれば、日銀が本格的な利上げに舵を切り、膨張したマネーを吸収するフェーズに入った時である。

日本円は過去3年間で、1ドル=100円台から150円台まで3割も減価した。一連の円安については、アメリカの金利が高く、日本がほぼゼロ金利なのでマネーがドルに流れていることが原因と説明されてきた。

その論理でいけば、日銀が利上げに転じれば円高になるとの予想が成立する。実際、多くの専門家は日銀が政策転換を表明すれば円高になると説明していたが、フタを開けてみると、むしろ円安が進んでいる状況だ。

日本は当面、緩和的政策を続けざるを得ない

為替というものが2国間の相対的な関係性で決まる以上、日本が金利を上げても、相手国の金利がさらに高ければ状況は変化しない。

アメリカは簡単に利下げできるような環境になく、一方で日銀はマイナス金利を解除したとはいえ、日本経済は急激な金利上昇に耐えられないので、当面、緩和的政策を続けざるを得ない。アメリカは金融引き締めが続き、日本は金融緩和が続くということなので、円安は進みやすいとの解釈になる。

さらに言えば、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備理事会)は、過去2年間で1.5兆ドル(約230兆円)もの資金を市場から回収する一方、日銀は600兆円のマネーの回収が全く進んでいないだけでなく、国債の買い入れを当分継続する予定であり、市場にはマネーが供給され続ける。

マネーの供給過剰はインフレ要因となるため、市場は日本の物価上昇は簡単には止まらないとみている。日米の金利差が縮小せず、日本のインフレ予想が高まっている状況なので、当然、為替市場には円安の力学が働く。

今回の日銀の政策転換は日本にとっては大きな変化かもしれないが、日米両国という視点で見ると、状況は何も変わっていない。結果として円安が進みやすいという環境もそのままである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story