コラム

日本独自の要因がもたらす「フードデザート」問題...「貧困対策」だけでは解決しない社会問題の深刻度

2024年01月24日(水)11時01分
日本をむしばむフード・デザート問題

JOHN KEVIN/ISTOCK

<諸外国では所得格差の拡大によって富裕層と貧困層の二極化が進んだことで生まれたと認識される「フードデザート(食の砂漠)」問題>

生活環境の悪化によって新鮮な食品の入手が困難になる「フードデザート(食の砂漠)」問題が日本でも注目されつつある。日本の場合、欧米よりも状況が複雑であり、早期の対応が必要だ。

諸外国ではフードデザートについて貧困問題として認識されてきた。所得格差が拡大し、富裕層と貧困層のへの二極化が進むことによって、裕福な地域にスーパーマーケットなどの店舗が集中。低所得層が健康的な食品にアクセスしにくくなっている。

食に関する環境が悪化するということは、生活全般の質低下を意味しており、最終的には医療や教育、福祉など広範囲な分野に影響を及ぼすことになる。

以前の日本は、欧米ほど所得格差が存在しないと認識する人が多かったことから、この問題はあまり重視されてこなかった。だが現在では、国内においても格差拡大が顕著となっており、欧米と同様、大きな社会問題となりつつある。

加えて日本の場合、欧米にはない複雑な要因が絡んでいる。それは急激な高齢化や過疎化に伴う地域商圏の消滅という、いわゆる人口減少問題である。

貧困問題と同時に、高齢化や過疎化も考慮する必要が

小売店や飲食店といったサービス業は、ある程度、人口集約が進んだ商圏が存在しないとビジネスとして成立しない。既に多くの地域で小売店の撤退が進んでおり、地域住民が新鮮な食品を買いに行ける場所が次々と消滅している。日本においてフードデザートの問題を考える際には、貧困問題と同時に高齢化や過疎化についても考慮する必要があり、解決策の提示は容易ではない。

食の砂漠化を防ぐに当たって、まずは貧困対策を進めることが重要なのは言うまでもないだろう。所得の再分配を強化することに加え、ボランティア団体などへの支援を強化することで、食にアクセスする現実的な手段を確立する必要がある。

経済というのは旺盛な消費欲を持つマス層が存在することで初めて回っていくものであり、低所得層への所得再分配はマクロ経済政策でもあるとの理解が必要だ。

一方の人口減少問題については、短期の施策と中長期の施策に分けて考える必要があるだろう。短期的には移動販売事業への助成などが考えられるが、中長期的には、行政主導で地域拠点への人口集約を進めていくのが望ましい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story