コラム

新型コロナが歴史に与える影響──EUの理想を実現させるか?

2020年08月28日(金)12時46分

FRANCISCO SECOーPOOLーREUTERS

<単なる経済支援という意味合いを超えるコロナ復興基金は、EUをどう変革させるか>

EUは、コロナ危機からの経済再生を目指す復興基金を設立する。EUにとって大きな意味を持つ施策であると同時に、コロナ後を見据えた戦略的な取り組みでもある。

アメリカはコロナ対策の方向性についてはっきりと定められない状況が続いており、この間に欧州勢が一歩も二歩もリードした格好だ。外国為替市場ではユーロ高が進んでおり、場合によっては、国際社会における欧州の発言力が一気に高まる可能性も見えてきた。

EUの首脳会議は7月21日、長時間の交渉の末、7500億ユーロ(約94兆円)の復興基金創設について合意した。基金の原資は欧州委員会が共同債を発行して調達するので、完全な欧州共有の財布になる。

EUの悲願ともいえる財政統合に道を開くスキームであり、大きな前進といってよい。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が「欧州にとって歴史的な日」と称賛したのもうなずける話だ。

しかしながら、今回の基金の特徴はそれだけではない。名前からすると単なるコロナ危機に対する支援金に見えるが、中身はだいぶ違う。各国は基金を財源として、地球環境問題とデジタル分野に優先的に資金拠出を行う。

地球環境問題は欧州にとって単なる環境政策ではなく、アメリカとの覇権争いや国際金融資本の利害が絡む極めて政治性・戦略性の高い政策分野である。また、シェアリング・エコノミーに代表される社会のIT化は、地球環境問題と密接に関係しており、両分野を重視した総額94兆円もの投資というのは、欧州の次世代戦略そのものにほかならない(94兆円の中には両分野以外への支出も含む)。

迷走アメリカを尻目に

アメリカは大統領選を控えコロナ対策が迷走しており、選挙の情勢が固まるまで戦略的な動きには出られない状況にある。EUはイギリスの離脱で一時は瓦解したかに見えたが、ここにきて結束を固めることに成功し、戦略的投資を決断できた意味は大きい。

金融市場は一連の決定について高く評価しており、為替市場ではユーロ高が進んでいる。今後のアメリカの動き次第では、欧州が世界覇権の一部を奪還するシナリオすら見えてきたといってよいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story